「今もペンを持ったおまわりさんだらけ」 袴田さん冤罪に加担したマスコミ…でも変わらない事件報道
●記者クラブは本来「捜査の問題に目を光らせる拠点」
袴田さんが逮捕された後の1966年9月12日の朝刊で静岡新聞は、事件の取材にあたった記者たちによる座談会の内容を大きな記事で紹介している。そこでは、捜査情報をつかむため警察を必死に追いかけ回る取材の一端が明かされている。 <捜査主脳部が夜おそく帰宅する前に自宅付近に待機して、情報をさぐったり、早朝の奇襲はほとんど毎日のようだった> <本社からは目新しいニュースをとの矢の催促‥‥‥。しかし一線の取材は警察のひたかくしにあってキリキリ舞い。事件記者の苦心を骨のズイまで知らされたのがこの事件だった> 捜査情報を聞き出したり独自取材で得た情報の裏取りをしたりするために、記者は早朝や夜遅くに捜査関係者の自宅や通勤路を訪れることがよくある。こうした取材手法は内部で「朝駆(あさが)け」「夜討(よう)ち」と呼ばれ、今も普通に行われている。 高田さんは「夜討ち朝駆け」という取材方法や記者クラブの存在自体を必ずしも全否定しないが、実際に記者が社会から求められている役割を果たせていないことに危機感を抱いている。 「捜査の途中でおかしいと思うことがあれば、記者は報じる。捜査が適法、適正に行われているかどうか。そこに目を光らせるのが警察担当記者の役割であり、その情報を取りに行く拠点として記者クラブはあるはずです。しかし、実態はそうなっていません。担当記者は警察に寄りかかって二人三脚を崩さず、壮大な広報係になっています。」
●事件はコスパがいい 「今もペンを持ったおまわりさんだらけ」
今世間を騒がせている連続強盗事件やそれに連なる闇バイトのニュースでは、犯行グループが使っていたあだ名や被疑者の供述などが毎日のように大きく取り上げられている。 その一方で、鹿児島県警の元幹部による告発や広島県警の不正経理事件、北海道旭川市の女子高生殺害事件で逮捕された女性と捜査担当刑事の不倫疑惑など、警察担当記者が本来追及すべき事案では、報道に消極的だったり週刊誌やネットメディアに遅れをとったりしている。 要するに、新聞・テレビ各社による記者クラブ・メディアには、警察と真正面から対峙する報道がほとんどないのだ。 高田さんは、地球温暖化や過労死など深刻な社会問題は他にたくさんあるにもかかわらず報じられることが少ない現状があると言及した上で、次のように話した。 「かつてと比べ、殺人事件などの凶悪事件の数は大きく減りました。個別の事件が大きく報じられはするけれど、日本社会の治安は良好です。一方で少子高齢化、過疎化、環境問題、防災などの分野で問題は山積み。過労死や賃金未払い問題など人の生き死に関わる問題も後を絶ちません。 それなのに、世の中がこんなに変わってきているのに、社内の取材体制や仕組みを変えられない。組織自体が古びて官僚的、保守的、事なかれ主義に陥ってしまい、世の中が求めることに対応できなくなっています。こんなにも多くの記者を警察に張り付かせているのは、日本くらいではないでしょうか。 PVや視聴率を稼ぎやすいという意味でも、事件はメディアにとって日々の紙面作り・番組作りのコストパフォーマンスがいい。だから、旧来型の事件報道を手放せなくなっているのかもしれません。今もペンを持ったおまわりさんだらけです」