「今もペンを持ったおまわりさんだらけ」 袴田さん冤罪に加担したマスコミ…でも変わらない事件報道
●再審無罪で報道各社おわび「捜査を疑う視点が欠けていた」
再審で袴田さんに無罪が言い渡されて以降、複数の新聞社が過去の報道を検証する記事を掲載した。 袴田さんが逮捕される約1カ月前に「従業員『H』浮かぶ」と報じるなど、当時の特ダネ競争を牽引したとされる毎日新聞は今年9月27日の朝刊に以下のようなおわびを出した。 <なぜ、このような報道を続けたのか。事件から半世紀が経過し、当時の編集局幹部に確認することはできませんが、時代背景が異なっていたこともあり、逮捕された容疑者の人権に配慮する意識が希薄でした。名前も呼び捨てにしていました。更に捜査当局への社会的信頼が厚く、捜査に問題があるかどうかを疑う視点が欠けていました> 静岡新聞は検事総長が控訴断念を表明したことを受けてこう説明した。 <事件当時、袴田さんを犯人視する報道を続け、結果的に読者、静岡県民を誤導したと言わざるを得ません> 朝日新聞もおわびを掲載し、次のように振り返った。 <事件報道は世の中の関心に応え、より安全な社会を作っていくために必要だと考えています。ただ、発生や逮捕の時点では情報が少なく、捜査当局の情報に偏りがちです。これまでにも捜査側の情報に依存して事実関係を誤り、人権を傷つけた苦い経験があります。 こうした反省に立ち、朝日新聞は80年代から事件報道の見直しを進めてきました。推定無罪の原則を念頭に、捜査当局の情報を断定的に報じない▽容疑者、弁護側の主張をできるだけ対等に報じる▽否認している場合は目立つよう伝えるなどと社内指針で取り決めています>
●高田さん「当時の取材プロセスを検証すべき」
こうした各社の振り返り記事について、元北海道新聞の記者で、現在は調査報道グループ「フロントラインプレス」代表として取材チームを率いる高田昌幸・東京都市大学教授は次のように指摘する。 「袴田さんの事件では、警察からの一方的な情報に基づいて、犯人視報道を延々と続けたわけです。当時の編集局幹部や担当記者は具体的にどう取材して、どんな指示を出して、どんな編集をしていたのか。各新聞社は、自社の先輩たちに取材し、当時の取材プロセスをきちんと検証すべきです。 今回、全ての報道をチェックしたわけではありませんが、具体的な取材プロセスに踏み込んで過去を検証したものは見当たりません。袴田さんのような冤罪事件はまた起きると思いますし、今も起きているかもしれない。 そんななかで、メディアが当時と同じように警察からの一方的な情報に基づく報道を続ければ、報道は再び間違ってしまうでしょう。袴田事件の報道は警察の広報に過ぎなかったわけですし、報道の責任は大きい。警察に寄りかかって事件報道を続けていると、また冤罪に加担するかもしれません」