更年期世代も「まだ恋愛をする」理由とは?脳の仕組みから考える「極めて明快な理由」【脳科学者・黒川伊保子先生に聞く】
「婚外恋愛」「セカンドパートナー」など、従来の夫婦・家族のあり方とは違う関係性を指す言葉が知られるようになりました。国内では引き続き3組に1組以上が離婚し*1、1カ月以上夫婦間で性交渉がないと答える「セックスレス」の割合も64.2%*2と増加が止まりません。いっぽうで育児が一段落する50代以上の再婚率は上昇基調にあり*3、もしかすると婚姻・恋愛に関してだけは「やり直しのきく社会」が実現しつつあるのかもしれません。 【データ】世代別レス率の割合/私は普通ですか? オトナサローネは共同親権・女性躍進などと並行して「超少子化・人口減社会に於ける家族のかたち」を考えています。その入り口として、人気の高い記事群「不倫問題」にフォーカスし、そもそも不倫とは何であるのか、どうして起きることなのか、なぜみんながこれだけ記事を読むのかその背景を真剣に考えたいと思っています。「にもかかわらず少子化」だからです。 シリーズ1回目は、国内の人工知能研究のパイオニアであり、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』など脳機能解説を多数執筆する脳科学者・黒川伊保子先生にご登場いただきます。「なぜ人は不倫をするのか」、脳の仕組みから読み解いていただくと、そこには意外な結論が。 【家族のかたちを考える#1 脳科学者・黒川伊保子先生】
人はなぜ「パートナー以外」を必要としてしまうのか? 脳の仕組みについて教えてください
――生涯添い遂げるご夫婦がいらっしゃる一方で、離婚をする人、また婚姻を継続したまま他のパートナーを探す人もいます。このうち、いわゆる「不倫」とはヒトの脳の仕組みから見た場合、どういう必然性があって起きるのでしょうか。 生物の種の繁栄は、遺伝子の多様性にかかっています。たくさんの遺伝子の組み合わせを残しておけば、あらゆる環境に適応して、子孫が生きていけるからです。 このため、脳には「できるだけバリエーション豊かな生殖をしたい」という本能があります。 一人の相手とでは、それほどバリエーションは作れないでしょう? だから、たった一人の相手にフォーカスできないのです。癌に強い遺伝子も、細菌に強い遺伝子も、農耕に長けた遺伝子も、狩りに長けた遺伝子も欲しいから。 ――遺伝子を残すという生物的な視点で見た場合、「生殖の有利さ」で説明がつく、ということなのですね? はい、多様性は、すべての生物にとって繁栄の基盤です。そして、雌雄でつがう動物は、相手を変えることで多様性を容易に上げることができる。 ただし、その論理にのっとっても、浮気しないメスが時々います。それは、彼女が生きる環境において、彼女のパートナーが最も免疫力が高いケース。 動物行動学の竹内久美子先生によれば、ツバメはペアの阿吽の呼吸で巣作りするので、容易にはつがいを変えないのですが、その巣の中には、その周辺の他の雄の遺伝子の卵が混在してるのだそう。つまり、オスもメスも浮気してるわけですね。 さらに興味深いのは、そのコロニーで最も尾が長く、2つに分かれた尾先の左右バランスがいいオスは、どの巣にも彼の遺伝子を擁した卵があり、彼のパートナーの巣には彼の卵しかないということ……! ツバメの場合、尾の長さと、その左右バランスの良さが、免疫力の高さに比例していて、ツバメのメスは、左右差のない長い尾のオスを「イケてる」と感じ、浮気しちゃうわけですね。けど、その際に、自分のパートナーよりイケてない相手は選ばない。かくして、そのコロニー全体の免疫力が上がっていくというわけ。脳というシステムは、本当によくできていると思います。 ――ツバメと人類を同じ論理で考えても問題はないのですね? 差異もあるのではと思います。 振り返るに、巣作りと子育てににコストも時間もかかる人類もよく似たシステムのはず。理性によって行動をセーブしたり、浮気する度に子どもを作るわけじゃないというだけで。 ちなみに、パートナーの免疫力が「メスの行動範囲内」で最も高い場合にメスは浮気をしないわけですから、行動範囲の狭いメスは、浮気の確率が低いということになりますね。 40年ほど前、女性の社会進出が加速した頃、「妻は専業主婦にしとくものだ。社会に出したら、浮気なんかして始末に悪い」と口に出す中年男性が多くて辟易したけど、あれは案外、真実だったのかも。まぁ、女性の立場から言わせてもらえば、「夫が十分イケメンなら、安泰なんだけどね」。ちなみに人類の場合、顔と身体だけじゃない、言葉や心根でもイケメン度は上げられます。 なお、オスは、相手の免疫力にメスほどこだわらないので(数を稼げるから)、メスよりも浮気心を抱く機会は多くなります。