更年期世代も「まだ恋愛をする」理由とは?脳の仕組みから考える「極めて明快な理由」【脳科学者・黒川伊保子先生に聞く】
性別や世代などで不倫に対する脳の違いがありますか?
――こうした判断は、若い人でもシニアでも同じような原理原則に基づいているのでしょうか? 50歳過ぎて、生殖能力が落ちてくると、想念の恋になってくるので、生殖本能に基づくそれに比べて、衝動については、おだやかになるはず。ただ、しみじみと相手を思うようになるので、根が深いかも。 ――男女ではどうでしょう、違いはありますか? 男女は生殖の仕組みが違うので、浮気のありようも違います。 女性は、妊娠・出産・乳児期の子育てにおいて、一人の相手にフォーカスしたほうが安全性が高いので、恋に落ちて最初の生殖サイクル(人によって違うけど2~3年)は、一人の相手に集中します。それを脱したころ、目の前に、より免疫力の高い遺伝子の持ち主が現れると心が動き、恋に落ちることも大いに考えられます。 その場合は、今の相手に最初に向けられていたような情熱を、次の相手に集中します。つまり、心理的には、完全に乗り換えます。 女性の浮気は浮気じゃない、次の本気に移っただけ。ただし、ツバメと同様、生活のパートナーは容易には手放せないだけです。 男性の場合、生殖はセックスで終了ですから、一人に集中する理由があまりありません。生育責任が果たせる相手の数には、人それぞれ限度があると思いますが。このため、複数の相手を、同等に愛せることもあります。 ちなみに、男女とも、年齢や健康状態によって脳自体が生殖に積極的でないときには、おだやかに一人の相手に寄り添えます。 ――つまり、生殖時期が終わったあと、女性でいえば閉経の後は、パートナーに対する気持ちはそれより前とは変わり得る。それは脳科学的に仕方ないのだということなのでしょうか。 とはいえ、人類は本能だけで生きる動物ではありません。恋に賞味期限があっても、思いや記憶を共有できる相手、悲しみをユーモアで癒してくれる相手、苦しみを笑顔で癒してくれる相手を人は手放せないのです。 そういう大切な人を守り抜くために、浮気な恋に手を出さない人も、たくさんいます。浮気は、生物多様性の論理に則った必然の仕組みですが、全ての個体が浮気に走るわけではないこと、そう努力できることは言い添えておきたいと思います。 ――黒川先生、本日はありがとうございました。 お話/黒川伊保子先生 株式会社 感性リサーチ 代表取締役社長 人工知能研究者、随筆家。人工知能エンジニアとして自然言語解析の現場に早くから従事し、1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピュータの日本語対話に成功。このとき、対話文脈に男女の違いがあることを発見。やがて、男女で「とっさに使う脳神経回路」の初期設定に大きな違いがあることをつきとめる。『恋愛脳』『夫婦脳』など脳科学本を経て、2018年には『妻のトリセツ』がベストセラーに。以後、数多くのトリセツシリーズを出版。 *1 令和5年(2023)人口動態統計月報年計(概数)の概況 特殊離婚率(離婚件数÷婚姻件数)38.7% *2【ジェクス】ジャパン・セックスサーベイ2024 *3 e-Stat 人口動態調査 人口動態統計 再婚 2015年と2022年の比較
オトナサローネ編集部 井一美穂