仏版『地球の歩き方』未掲載の穴場!レ・サーブル=ドロンヌがフランス国内で人気の理由
2時間待ってでも入りたい所とは
ヴィレッジの開設はレース開幕3週間前の10月19日に始まった。 スタート地点である港にはスキッパーが乗る船が並び、その奥には見本市さながらの大イベント会場が設置されている。希望者は事前予約で誰でも入場できる。会場内は、レースの歴史、ヨットの展示、サポーター企業の出店、スキッパーの視界を体験できる部屋などがあり、楽しみながらヴァンデ・グローブについて知ることができる。 開幕近くの日程ならば、会場内の「キャンプ村」に入っている選手たちに会えることも。 街を挙げての大掛かりな催しに無料で参加できるとあって、秋休み中の子どもたちを連れた家族や、スマホを構えるヨット好き、カップルなどが訪れ、会場は大賑わい。平日でも入場するのに2時間かかることもある。 一方で来場者が出すCO2対策にも抜かりはない。事前オンライン予約制で入場者数を把握し、駐車場エリアから会場まではシャトルバスを運行させる、また、鉄道客のために、会場に最も近いレ・サーブル=ドロンヌ駅までの切符を、ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏内で安価に販売するなど、規制しつつ配慮も忘れない。 そうした甲斐もあり、ヴァンデ・グローブはフランスを含むEU圏内では大人気で、11月10日のレーススタートには50万人もの人が集まり、テレビでは毎日中継が入るという。 世界の大イベントの開催地で、活気にあふれながら、アジア人にまだまだ知られていない穴場的レ・サーブル=ドロンヌ。唯一の難点があるとすれば、説明や表記がすべてフランス語であることだ。日本語はもちろん、中国語も、英語すらない。 しかしそれこそが、世界の観光地がオーバーツーリズム問題と向き合う今の時代に、清潔で安全、美食と景観に恵まれた観光地でありながら、ローカル(あえてEU圏もそう呼ばせてもらおう)だけで占められている証拠ではないだろうか。
アウェイの地でサインをねだられる日本人
ところがローカル色濃いこの地にいながら、地元客からさかんに声を掛けられ、写真をねだられる日本人がいた。 日本、いや、アジア人でこれまでただ一人、ヴァンデ・グローブを完走した経験を持つ、日本人スキッパーの白石康次郎さんだ。 1994年、当時26歳で最年少単独無寄港世界一周の記録を樹立し、続く2003年、2007年に単独世界一周レースでそれぞれ、4位と2位のタイトルを獲得した。2016年にいよいよヴァンデ・グローブに初参戦するが、スタートから1カ月後にマストが折れてリタイアとなる。 が、次の2020年、世界がコロナ対策に追われ、オリンピックが延期になったその年、ヴァンデ・グローブは開催された。開催前のイベントは自粛しても、単独・無寄港・無補給の孤独なレースは、感染からもっとも遠い環境にあるからだ。白石氏は再び挑戦し、見事16位で完走した。 そして今回、3度目の挑戦となる白石氏に国際的な注目が集まっている。羽のついた最新の小型船は最良の状態に準備された。白石氏とチームメイトは、近くにシェアハウスしながら、チーム力をさらに密にしている。 命を賭しての出走前、さぞかし緊張も高まっていることだろう、インタビューは可能なのかと伺ってみると、白石さんは船の上でイベントスタッフやチームメイトと談笑していた。 さっそく話を聞いた。