新大関大の里への期待と大谷翔平の記念ボール「記録は破られるためにある」
【ベテラン記者コラム】いまにして思えば生活に根づき、すっかり習慣化されていたことに気づかされた。ドジャースの大谷翔平選手(30)が世界一となり大団円で今季を終えてから、午前中にNHKテレビのBS放送でなされていた米大リーグ中継もなくなった。一日中、話せる話題が消えてしまった喪失感ともいえそうだ。 史上初の「50本塁打、50盗塁(50-50)」を達成した際のホームランボールがオンラインによる競売で売買手数料を含め、439万2000ドル(約6億7000万円)で落札されたことは記憶に新しい。主催した競売会社によると、競技に使用するボールでは史上最高額という。野球や大谷に関心も興味もない向きには突拍子もない金額に思えるだろうが、得難いものへの畏敬は理解できる。 大相撲の九州場所(10日初日、福岡国際センター)が間もなく幕を開けるが、土俵にも記録への関心が高まる。同場所を新大関として迎える大の里の存在だ。幕下10枚目格付け出しの初土俵から1年半足らず。5月の夏場所に続き、9月の秋場所でも2度目の賜杯を抱き、初土俵から所要9場所での大関昇進は羽黒山、ともに幕下付け出しの豊山と雅山の12場所を抜く昭和以降最速記録となった。 さらなる記録更新にも期待が膨らむ。初土俵から横綱昇進までの最短所要場所(昭和以降)は羽黒山、照国の「16」。大関通過場所数では双葉山と照国がわずか2場所で横綱となっており、記録への挑戦は続く。 「記録は破られるためにある」 英国の起業家、リチャード・ブランソン氏(74)が発した言葉といわれている。コングロマリット(巨大複合企業グループ)の「ヴァージン・グループ」の創設者でレコードレーベル「ヴァージン・レコード」を立ち上げ、ヴァージン・アトランティック航空を設立。英国鉄民営化時に鉄道事業、金融事業、最近では宇宙ビジネスにも参入。生き馬の目を抜くような企業間競争を勝ち抜いたレジェンドの実感が伝わってくる。 それを有名アスリートがたびたび口にしたことで、言葉への重みが深まっていった。そんな一人に故ジム・ハインズ(米国)がいる。1968年6月、米カリフォルニア州サクラメントで行われた五輪選考会。陸上競技の男子100メートルで9秒9を記録。史上初の9秒台をたたき出し、その記録で黒人の存在感を世界に示した。手動による計測だったものの、当時21歳。陸上を始めてわずか4年での快挙だった。