元女性の夫と元男性の妻 本来の「性」取り戻した性別逆転夫婦 最高裁「違憲」判断への思い #性のギモン
歩夢さんも同様だ。「例えば未悠とお互いに手術前に出会い、女である僕と男である未悠で血のつながった子ができる可能性があったとしても、僕がそれこそ妊娠・出産すること自体が無理。卵巣があること自体、気持ち悪かったから、それを切除することに躊躇はなかったです」 だから、今回の司法判断を受けて今後法律が改正され、法的な性別変更に手術の必要がなくなったとしても「国を訴えるようなことは考えていない」と二人は口をそろえる。 一方で、差し戻しになった(5)の外観要件について、歩夢さんは「(4)も(5)も両方なくなったほうが悩む人は減ると思う」と言い、未悠さんは、例えばペニスを切って精巣は残す場合、「男性ホルモンと女性ホルモンの両方が増え続け、身体的につらいのではないか」と健康面を危惧する。
「むしろ国や社会には、法改正以上に配慮してほしいことがある」と未悠さんは言う。性別適合手術におけるリスク、費用、時間の問題だ。 「一刻も早く手術して性別を変えたいのに、手術可能な病院が現状は少ない。もし居住地の近くにそうした病院が増えれば費用や時間が抑えられます。手術に保険が適用できたら、学生でもアルバイト代だけで費用が賄えるかもしれない。また、手術後は1カ月以上の安静が必要なのに、会社に休暇取得を言い出せないでいるトランスジェンダーが多いんです。妊娠して産休・育休を取られる方と同じように、『性別適合手術を受けたいからお休みをいただけないですか』と普通に言える世の中になったらいいなと思います」 歩夢さんも、就職した運送会社をいったん辞めて手術をし、再就職した。また、当事者の間での話では、FtMの就職先は運送業や介護職が、MtFは朝から夕方までの“昼職”を断念してニューハーフパブなど“夜の世界”に進む人が圧倒的に多いという。就ける仕事の多様性のなさについても課題が残る。
体と違う性別を抱えているだけ。それ以外は「変らない」
以前はそれぞれ運送会社とアパレルで働いていた二人だが、結婚後は夫婦での講演活動も増え、現在は「LGBTQ講師・活動家」に専念中だ。講演依頼は小学校から大学までの児童・学生向け、保育園などの保護者向け、自治体や寺社が開催する人権セミナーなど、月に数本ペース。仕事を変えた根っこには、トランスジェンダーへのさまざまな誤解や不安を払拭したいという強い思いがある。