元女性の夫と元男性の妻 本来の「性」取り戻した性別逆転夫婦 最高裁「違憲」判断への思い #性のギモン
だがその翌日、母は衝動的に自傷行為をする。幸い、一命は取りとめたが、自分のせいだと未悠さんは自責の念に駆られたという。その後、平静を取り戻した母はLGBTQやGIDについて学び、理解を深め、最後には精神科のカウンセリングへと同行してくれた。 父にカミングアウトした際は「俺にはわからへん」と突っぱねられたが、最終的にはホルモン治療の同意書にサインをしてくれたそうだ。 こうして幼少期から抱えていた「性別不和」について両親の理解を得た二人が次に目指したのは、性別の変更だった。 2004年に施行された「性同一性障害特例法」の性別変更5要件は、(1)20歳以上(当時の成人年齢で、現在は18歳以上) (2)現在結婚していない (3)未成年の子がいない (4)生殖不能要件(生殖腺《卵巣や精巣》がないか、その機能を永続的に欠く) (5)外観要件(変更後の性別の性器に似た外観を備えている)と定めている。
歩夢さんは2013年2月、20歳で(4)と(5)にあたる性別適合手術を受けている。費用は胸オペ、子宮・卵巣摘出で約150万円かかった。未悠さんは2017年、大学3年生で手術。通院費、ホルモン治療、精巣摘出・陰茎切除の合計額は250万円以上だ。それぞれ、費用はアルバイトを掛け持ちして自力でためた。 その手術に対して二人が共通して使った言葉は、性別を「変える」ではなく、「戻す」だった。 「僕にとって特例法の5要件というのは、覚悟を決める大切なステップでした。これがあるから、男性に戻れる。だから手術に対する覚悟もできたんです」(歩夢さん) 「手術を受け、戸籍を変更するという、その二つを通してやっと自分の本来の姿に戻れたんです。結局、私たちは誰かのために手術したわけではない。ただ自分らしく生きるため、自分が楽しく過ごせる日々を送るために、手術をしたんです」(未悠さん)
手術後の最大の喜びは、「保険証の性別が男に変わったとき」と歩夢さん。「自己紹介で見せたかったぐらい」と笑い、未悠さんも「うんうん、見せびらかしたかったよね」とうなずく。公的な身分証明書で「本人ですか?」と毎回問われるのは、ひどいストレスだったからだ。 ともに10代の頃の一人称は、「僕」「私」ではなく、「自分」だった二人は、念願の「本来の性」を獲得した。