マグロの解体ショーに野菜の詰め放題…ドン・キホーテ大躍進の秘密
次に渡辺がタッグを組むのは、北海道函館市で「さきイカ」などを製造する食品メーカー「ジョッキ」。この日の商談で、商品の仕上がりをチェックするとともに仕入れ価格などを決定する。 今回、渡辺が開発しようとしているのがイカの燻製。ただし、これまでにない「イカくん」を目指すと言う。実は売られている「イカくん」のほとんどは、調味液を吹きかけ、燻製の風味をつけたもの。それに対して渡辺は、実際に煙で燻して香りをつける本物のイカの燻製を作ろうとしているのだ。 「最後まで燻製で香りを入れる。尖らせて他の商品と差別化を狙います」(渡辺) 新商品の最終関門が幹部社員も参加して販売するかどうかを決める商品起案会議。煙で燻して作る本物の「イカくん」の試作品が完成した。 商品名は「サクラ・クルミ・ブナ、幾度となく配合比を吟味した、三種の燻煙で仕上げた燻製いか。鼻から抜けるスモーキーな薫りと、噛むほどにあふれるいかの旨みで、いぶし銀の晩酌をご堪能あれ」と、言いたいことを全部詰め込んだ80文字だ。 だが、責任者の森谷からは「うちのは本物だからということをちゃんと書いたら?」との意見が。「調整します」と渡辺は答える。客の心を動かすPBはここまでやってようやく棚に並ぶ。
小売り未経験から社長へ~継承する「安田イズム」
ドン・キホーテのスタッフは「売り場」と言う言葉を使わない。 「お客様が買われる場所なので『買い場』です。お客様が主語なので」(吉田) ドン・キホーテが最も大事にしている企業理念が「顧客最優先主義」。何でも客の立場に立って考えるから、「売り場」も「買い場」と呼んでいるのだ。 「ほとんどのことが安田から来ています。『買い場』というのもそうです」(吉田) 吉田は1988年、国際キリスト教大学を卒業後、INSEAD(欧州経営大学院)でMBAを取得。その後、世界的なコンサルティング会社、マッキンゼーに入社する。人生を変える出会いは1999年。知人からドン・キホーテの社長・安田を紹介され、コンサルタントとして仕事を手伝うようになったのだ。 あくまで仕事上の付き合いのつもりだったが、ある日、安田から「うちに来ないか」と言う電話があった。 「私自身は財務戦略などは分かりますが、小売業は分からないので『それはできないです』と話していたのですが、また電話がかかってきて……」(吉田) 断り続けた吉田だったが、決め手になったのは「ドンキという新しい舞台で輝いてくれ」と安田の一言だったいう。 「決め台詞なのですが、それを聞いて舞い上がってしまい、『ぜひやらせてください』という気持ちになった」(吉田) 吉田は2007年、ドン・キホーテに入社。財務や法務などの責任者というポストを務め、2019年、入社12年目にして社長CEOに抜擢された。そんな吉田が安田から直々に叩き込まれたのが、客の要望にとことん応える「顧客最優先主義」なのだ。