2期目の小池都政「脱パフォーマンス」都民の信頼保てるか
五輪・コロナ対策……そして都議会運営
では、小池都政2期目の課題は何か。 今回は小池知事の信任が問われる選挙であり、また上述したように、主要争点が新型コロナ対策や東京五輪に限定されがちだったこともあり、小池氏は1期目ほどの目立った公約を掲げてはいない。やはり、コロナ禍をどう乗り切るか、五輪・パラリンピックにどう対応するかが問われていくだろう。 東京五輪・パラリンピックの延期に伴い、数千億円の追加費用が見込まれている。この追加費用の分担は未定であり、場合によっては都がかなりの額を負担することになる可能性もある。大会の簡素化など経費節減策を進めているところであるが、都財政がひっ迫の度を増す中(※注)、そうした負担に都民の納得が得られるかが問題である。 そもそも来夏の時点で東京五輪・パラリンピック開催が可能かどうかも見通せない。万一、中止という事態になった場合、経済効果の点でも大きな損失が生ずることが懸念される。都知事の舵取りは極めて難しいものとなろう。 新型コロナ対策について見ると、7月6日現在で、東京都の新規感染者は5日連続で100人を超えており、小池知事は「感染拡大要警戒」の段階だとしている。懸念される第2波にどのように備えるか――医療体制の拡充は間に合うか、感染拡大を抑えつつ経済と雇用への悪影響をいかに防ぐか――は深刻な課題である。 (※注)…新型コロナ対策のための緊急支出が多額に上ったことにより、都の貯金に当たる財政調整基金の残高が激減している。2019年度末で約9000億円あったものが今年度末には約500億円になる見通し。
ところで、少し大きな話になるが、新型コロナ対策では各国でロックダウンなどの強い措置が取られた。こうしたことから、感染症の封じ込めには民主主義国よりも中国など権威主義国の方がうまく対応できるという見方があるが、それは必ずしも適当ではない。中国では強権発動によって効果的に都市の封鎖ができたものの、情報流通の自由がなかったためにかえって感染が拡大したと指摘されている。ドイツなどの民主主義国でも、国民の理解を取り付けることによって効果的に感染の封じ込めができた国もある。 一般的に見て、コロナ対策に成功した国では、政府と国民との間に信頼関係が存在していたといえる。リーダーシップは重要であるものの、強権的な措置を取ればよいというものではない。情報流通の自由や決定過程の透明性が保証された上で、リーダーが国民に十分な説明を行い、その理解を得ることが決定的に大事だといえよう。 このように考えると、今後「ウィズコロナ」時代を迎え、感染症と中長期的に対峙していくためには、都知事には信頼関係に基づき粘り強く都民と対話していく姿勢が求められる。1期目前半に見られたようなパフォーマンス重視の政治スタイルだけでは、こうした信頼関係を保っていくことは望めないだろう。人々の声に耳を傾けつつ、地道な努力を重ねることが必要である。 感染症対策や東京五輪・パラリンピックだけでなく、雇用対策、少子高齢化対策、災害対策など都政の課題は山積している。しかも来夏には都議選が予定されている。都民ファーストがかつての勢いを失ったように見える中、小池知事は都議会とどのような関係を築いていくだろうか。公明党とは安定的な関係を保っているものの、もし都民ファーストと公明党で過半数を取れない状況になった場合、自民党との関係修復を視野に入れる必要が出てくる。その点で、今回の知事選が自民党との関係にどのように影響するのかが注目される。 いずれにせよ、「パフォーマンス」を超えて実効的な成果をどれだけ生み出せるか、政治家小池百合子の真価が問われる局面であろう。
--------------------------------- ■内山融(うちやま・ゆう) 東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など