「劇映画 孤独のグルメ」松重豊さんに聞く、人気ドラマ「12年の集大成、ターニングポイント」の覚悟と決意
様々な縁がつむいだスープの旅
――今作のメイン料理をスープにした決め手になったのが、NHK大河ドラマ「どうする家康」で共演した松本潤さんからのひと言だったそうですね。 「どうする家康」の撮影中に、どうしてもこの作品のシナハン(台本を書くための取材)に行かなきゃいけなかったんです。だけど撮影がなかなか終わらず、スケジュールがどんどん先に伸ばしになっていたので、松本くんに「悪いんだけど、パリにシナハンしに行かなきゃいけない」と伝えたら「僕の友達のシェフを紹介しますから、ぜひ会ってくださいよ」と言われて「PAGE S」(パージュ)というレストランのオーナーシェフ・手島竜司さんを紹介してもらったんです。 その前から「スープ探しの旅」というのをキーワードにしたいなとは思っていたけど、僕もフランスは初めてだったし、パリで何を食べればいいかも分からなかったので、手島シェフや、本作にも出演してもらっているパリ在住の杏ちゃんにいろいろ聞いたところ「オニオングラタンスープ」と出会いました。オニオングラタンスープだったら日本人の誰もが知っているし、かつ、お店の味を左右するぐらい手抜きができない、下ごしらえの大変なスープということだったので、これはピッタリだと思いました。シナハンの旅もオニオングラタンスープと共に出発できたので、松本くんには本当にいい人を紹介してくれたなと感謝しています。 ――この映画をつくる上で一番のよりどころとしていたのが、伊丹十三監督の「タンポポ」だったそうですね。以前、伊丹監督が「食べ物は素晴らしい映画的素材だ」と話していた記事を見たことがあるのですが、通じるところはありますか。 今回「孤独のグルメ」を劇映画化にするにあたって、日本の映画で食べものをちゃんと主軸に置いて撮った映画は何かと思い出してみたところ「タンポポ」がすっと頭に浮かんだんです。もう40年も前の作品ですが、いま見返しても面白いです。ただ、日本人は食べることが大好きなくせに、意外と食べ物をメインに据えた映画というのはそれほど見当たらないんですよね。だったら改めて「タンポポ」という作品にオマージュを捧げようと思ったんです。「タンポポ」も飲食店を再生する話ですし、奇しくも山崎努さんが演じた主人公は「ゴロー」という名前なので、なんだか不思議なつながりを感じました。 今、伊丹さんのような人が日本に足りないんじゃないかなという気がしているんです。伊丹さんと僕は年齢もキャリアも全然違いますが、50半ばで初めて映画を撮られたという経緯も考えると、いつかどこかで近づけたらなという気持ちは映画に取りかかる時からありました。