箱根駅伝“山の神”に「絶対なりたい、とは思わなかった」東洋大・宮下隼人が逃した“神”にいま思うこと「5区の区間記録はプライドでした」
タイムは確認していなかった
時計は、入りの1キロだけ見て確認し、その後は見ずに走っていた。運営管理車から前と何秒差とか、区間賞いけるとか、そういうことを言われた記憶もなかった。 「僕が覚えていないだけかもしれないですけど(苦笑)。でも、キツいはキツいんですが、高校の恩師や友人が応援に来てくれたのは気づく余裕がありました。両親だけは見つけられませんでしたが(苦笑)。区間新のペースで走っているとか気がついていなくて、ゴールして芦ノ湖で主務に伝えられて、『えーーっ』って感じでした」 宮下は、青木涼真(法大)、浦野ら有力選手を抑えて、区間記録で区間賞を獲得。チームの順位を11位まで押し上げて翌日の復路に繋ぎ、東洋大はなんとか総合10位でシード権を確保した。
山の神への期待には…
区間新を出したことで注目されるようになり、「山の神」への期待も大きくなっていった。ネット記事やSNSでも取り上げられていたが、ほとんどスルーしていたという。 「僕は区間記録を更新する前もあとも、山の神には『なれたらいいなぁ』というぐらいのスタンスでした。神ってすごく重い言葉だと思うんです。だから、自分でなりたいというのも抵抗がありました。 それに神になると山だけみたいに思われるのも嫌だったんです。柏原さんも山のイメージをつけられるのがイヤだと言っていましたが、社会人になったら山だけじゃないぞ、と見せたいと思う自分がいたので、『絶対に山の神になる! 』という感じではなかったんです」
2度目の5区
コロナ禍のもとで開催された第97回箱根駅伝、宮下は再び5区に起用された。トップの創価大と2分10秒差の5位で襷を受けた宮下は東京国際大、早稲田大を抜き、小田原中継所で28秒差だった駒澤大を6.3キロ手前で抜いた。 「前に(鈴木)芽吹君がいて、スッと抜いたんですけど、うしろにピッタリとつかれたんです。たまに顔を見ても息も上がっていないし、表情も辛そうじゃないんですよ。逆に僕の方が苦しくなって、これは前を行かれたらやばいと思っていました。でも、前の創価大を追うにはひとりよりもふたりで競った方がいいので、嫌だと思わず、2人で追えていいじゃんぐらいに考えて走っていました」 勝負に出たのは、小涌園前から最高地点の4キロの区間だった。 「分割データを持っていて、その区間、僕は他の選手よりも速かったんです。それに過去の山の神、今井(正人)さんも柏原さんも神野(大地)さんもみんな、ここで結果を出していた。ここはもう俺の勝負どころだ、と思って前に出たんです」 宮下は、トップの創価大に2分14秒差の2位でゴール。区間賞は細谷翔馬(帝京大)で、宮下は区間3位に終わった。この時、区間6位に入ったのが、のちに宮下の区間記録を破ることになる山本唯翔(城西大―SUBARU)だった。
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