ストレスをためている若手社員に原因を聞いた…「ロールモデルがいない」「スキルが身につかない」と訴える理由
女性一般職、安定を求めたけれど物足りない
次は女性の例です。別の会社の25歳の大木美香さん(仮名)もやはりストレスチェックで高ストレスと判定されて面談に訪れました。 産業医 : 産業医の夏目です。 美香さん: 入社5年目で、庶務課で働いています。なんとなく不安な気持ちがあるので面談を希望しました。聞いていただけますか? 産業医 : どうぞ。 美香さん: 私は地域採用という枠で、一般職として支店で勤務しています。 産業医 : そうですか。 美香さん: 一般職を選んだくらいですから、安定した仕事につければいいと思っていたのですが、仕事に張り合いがないのです。 産業医 : 張り合い?
5年間、同じ庶務の仕事でいいのか
美香さん: 入った時から支店の庶務で同じ仕事です。5年上の先輩と仲良くしていて、食べ歩きやおしゃべりが楽しみです。最近、先輩が「私たちって、ずっと庶務だから、キャリアと言えるものも、仕事のスキルアップもないよね」って言うんです。先輩も庶務10年ですから。 産業医 : 昇進もなければ、仕事の変化もないということですね。 美香さん: 先輩は「将来のことを、あまり考えずに就職した責任はあるけどね」とボヤいていました。「彼氏もいない。何だかむなしい」という話を聞きながら、私も将来のことを考えるようになったのです。 産業医 : 以前なら一般職は結婚して家庭を持つことを前提にしているようなところがありましたが、今は必ずしもそうではありませんね。そうなると、「キャリアがない」「スキルアップがない」ことが物足りなくなってきたということでしょうか。 美香さん: 仲間としゃべっていると「ない、ない」という人は多いです。 産業医 : そうだね。面談していると「目標がない、希望が持てない、だから将来が不安です」という悩みをよく聞きますね。
「おちゃめのミーカ」の元気は今どこに
美香さん: 短大時代は友だちに「おちゃめのミーカ」と呼ばれていたんですが、あの頃、楽しかったなぁ。イキイキしていました。 産業医 : 明るかったんだ。 美香さん: 先輩と話をしていたら、私も考え直さなきゃと思ったんです。 産業医 : なるほど。 美香さん: こうしてお話ししていたら、頭が整理されてきました。 産業医 : 考えがまとまった? 美香さん: ちょっと考えていたんですけど、昔からバレーボールが好きだったので、チームに入ろうかな。 産業医 : 方針が定まりましたね。面談終了です。 美香さん: 1時間もたったの……先生、ありがとうございます。 男女2人の「高ストレス者」面談を紹介しました。それぞれに社内での立場もストレスの原因も異なります。原田さんは職場のあり方、美香さんは一般職採用という立場と働きがいで悩んでいるようです。ただ、共通していると思うこともあります。仕事の環境や個人のライフプランが時代とともに大きく変化している中で、組織がそれに柔軟に対応しきれていないのではないか。若手の話を聞いていると、そんなことを考えます。
夏目誠(なつめ・まこと)
精神科医、産業医、大阪樟蔭女子大学名誉教授。40年以上13企業の精神科医として従業員の診療や相談、啓発普及(講演1500回)、復職支援に関与しメンタルヘルスの向上に取り組んでいる。人事院・心の健康づくり指導委員会委員、日本産業ストレス学会元理事長。 著書に Amazon.co.jp:「35歳からのメンタルヘルスー事例でわかる働く人と家族のストレス対策」、「中高年に効く! メンタル防衛術」、「職場不適応サイン」など多数。 夏目誠の公式ホームページ (natsumemakoto.com) 精神科医マコマコちゃんねる - YouTube