20代でも要注意!「老眼」は生産性を奪う 眼科医が解説、自分でできる対策とは
目の健康はビジネスパーソンにとって不可欠ですが、特にミドル・シニア層が経験する「老眼」は業務効率に大きな影響を与えます。ビジネスパーソンはどのように「老眼」に向き合っていけばいいのでしょうか。ミドル・シニア層の活躍の重要性が叫ばれている今、企業は老眼を抱える人をどのように支援すればいいのでしょうか。二本松眼科病院副院長であり、眼科専門医として、YouTubeや書籍などで目についてわかりやすく解説している平松類さんにお話をうかがいました。
「老眼」は生産性低下、眼精疲労、メンタル悪化につながる
――老眼のメカニズムと原因についてお聞かせください。 老眼とは、目のピント調整機能の低下によって近くのものがぼやけて見えにくくなる状態のことです。通常、私たちが遠くから近く、近くから遠くを見るときは、目の中の水晶体というレンズが、毛様体筋という筋肉を使って厚さを変えることでピントを調整しています。その機能が低下し、手元が見えにくくなるのです。 「老眼」を引き起こす原因は大きく二つあります。一つ目は、加齢によって水晶体の弾力性が失われたり、毛様体筋が衰えたりした結果、近くの物を見るために水晶体を厚くしてピントを合わせようとしてもスムーズにいかなくなること。二つ目は、手元ばかり見続けることで毛様体筋に負担がかかり、一時的にピント調整がうまくできなくなることです。これは「スマホ老眼」とも言われるのですが、スマートフォンやタブレットなどを使うことで至近距離を長時間凝視した結果、毛様体筋が過緊張となり、老眼と同じ「手元が見えにくい」状態になります。つまり至近距離を長時間凝視する状態が恒常化すると、目のピントを調整する働きが低下して、10代や20代でも老眼の症状になるのです。 もともと人類は、狩猟や農作業などのために外で遠くを見ながら過ごし、暗くなったら寝ていました。そういう生活をしながら、長い歴史の中で進化してきた人間の目は、そもそも長時間手元を見るように設計されていません。そのため、電気の下で長時間にわたり手元を見続ける行為は、目に相当な負担をかけます。 実は、加齢によるピント調整機能の低下は20代後半から始まっています。しかし、自覚するのは40代後半で、そこから70歳ごろまで少しずつ進行します。初期段階では、見る対象を遠くから近くにパッと切り替えた瞬間に見えづらかったり、疲労が蓄積されてくる夕方や週末に見えにくかったりする症状が多いのですが、加齢とともに老眼が進行するにつれて恒常的に見えにくくなっていきます。 ――老眼は、生活や仕事にどのような影響を与えるのでしょうか。 老眼の影響は、単純に「手元の小さい文字が読みにくくなる」だけではありません。人は普段からものを「見て」判断しますが、そのアウトプットも視覚情報に依拠しています。老眼によって視覚による入力・出力が困難になると、当然生産性は低下します。ドライアイの症状だけでも、生産性を約48万7千円(一人当たりの年間売上金額に換算)低下させるという研究結果(※1)もあるほど、目と生産性には大きな関連があるのです。 老眼は眼精疲労の原因にもなります。眼精疲労による頭痛や肩こり、吐き気などの症状が、薬が効かないほど悪化すると、会社を休んだり辞めたりせざるを得なくなることもあります。眼精疲労は、目ではなく脳が疲労している状態なので、脳を使う作業が困難になります。 近見視力(きんけんしりょく=30センチほどの近くを見る視力)が悪い人は、認知機能が衰えやすいという研究報告もあります。目に入った情報を映像として認識する際、ぼんやりとしか見えなければ、脳は補正しようとします。すると脳が疲れて、映像処理を行わなくなってしまうのです。 さらに、老眼がメンタルに悪影響を及ぼす場合もあります。仕事でミスが続いたり、作業効率が低下したりしたため自信を失っていたが、実はその原因が老眼だった、ということもあります。まったく見えなくなるわけではないので、自分が老眼だと気づかない人も多いのです。「世の中が暗く見える」という表現があるように、視覚がクリアでないことでメンタルの状態が悪くなることもあります。 老眼は「文字が読みにくくなる」と思われがちですが、「識別できていない」と自覚しやすいのが文字というだけで、実際は手元にある細かいものはすべて見えにくくなっています。例えば商品チェックや組み立てなどの細かい手作業、画像確認など、文字以外のものを見る業務に影響が出てもおかしくありません。 一方で、40代や50代の人は見えにくさを感じたとき、「老眼のせいだ」と思い込んでしまうことが多いのですが、実は緑内障や白内障、網膜剥離など深刻な目の病気を発症している場合もあります。老眼による眼精疲労のため頭痛や焦燥感が発生しているのに、更年期障害が原因だと勘違いするケースも多い。見えにくさや不調を感じたら自分で判断せず、早めに専門医で検査を受けることをお勧めします。 ※1 https://www.santen.com/content/dam/santen/global/pdf/ja/news/20140325.pdf 2014年発表の調査結果。「Osaka Study」(ドライアイ研究会と参天製薬の共同研究)より