半世紀前の木造電車が一夜限りの“運行” 愛知・旧豊橋鉄道田口線
52年前に全線廃止となった愛知県のローカル鉄道、旧豊橋鉄道田口線で使われた木造電車が、一夜限りの「復活」を遂げた。屋外展示されていた1両が26日、新たな施設へ移すためトレーラーに載せられ、深夜の公道を疾走。噂を聞き付けた地元住民や見物客が沿道で見守り、過疎の進む町が興奮に包まれた。
旧郷土館から約6キロを深夜に引っ越し
旧田口線は、同県東部の本長篠駅(新城市)と旧三河田口駅(設楽町)を南北に結んだ延長22.6キロの路線。1932年に全線開通したが、自動車の普及などで68年に役割を終えた。 現地は森林に覆われた山間部で、険しい地形にレールを通すためトンネル24カ所、橋りょう17カ所が造られたという。これらの一部は今も山中などに残り、全国の鉄道ファンを引き付けている。 今回移送されたのは、日本車両製造が造った木製車両「モハ14型」で、全長約15メートル、重量は台車を含めて約29トンとみられる。設楽町中心部の「奥三河郷土館」(2016年に閉館)で屋外展示されていたが、来春町内で開業する新しい複合施設への移設が決まった。 旧田口線を紹介するイベント開催などに取り組んできた地元ガイドの石井峻人さん(36)によると、床や内壁が木材で組まれ、英国製の駆動装置が使われている。 運搬を引き受けたのは、鉄道車両輸送の実績が豊富な大阪市のアチハ。26日朝からクレーンで車体を台車から取り外し、慎重にトレーラーへ積み込んだ。その後、交通量の少なくなる午後11時を待ち、高台の旧郷土館を出発した。 目的地への道のりは約6キロで、標高差が約250メートルある下り坂。アチハの島正男顧問は「反対車線に出ないと曲がれないところが何カ所もあり、厳しい道だ」と話していたが、輸送は約30分でスムーズに終了した。
首都圏からも見物客、過疎の町の呼び物に期待
神奈川県から見物に訪れた男性会社員(25)は「電車が宙に浮き、道路を走る姿は非日常的。古くて劣化した車体を、いかに負担をかけずにつり上げるかを見るのが楽しい」と満足そうだった。 翌27日朝に行われた設置作業では、車両がレールに下ろされ、ワイヤーを使って屋根の下まで引き込まれた。移送先では設楽町が道の駅などを建設中で、木造電車も呼び物の一つとして期待されている。 作業を見守った地元ガイドの石井さんは「当時の車輪が実際に動く瞬間を目の当たりにできた」と感慨深げ。移設を機に「(旧田口線の)町の資産としての価値と地域の歴史を多くの人に発信していきたい」と気持ちを新たにしていた。 (橋本謙蔵/nameken)