「たとえ金持ちでも、ふさわしくない人物にフェラーリは売らない」 伊高級車メーカーCEOが語る企業哲学
自動車業界の競争が激化するなか、イタリアの高級車メーカーであるフェラーリが躍進している。時価総額は2016年の上場時の10倍を超え、世界の自動車メーカーのなかでは5位だ(2024年12月時点)。内燃エンジン車を中心とする同社は、EV(電動車)シフトが加速するいまもなぜ絶好調なのか。 【画像】「たとえ金持ちでも、ふさわしくない人物にフェラーリは売らない」 伊高級車メーカーCEOが語る企業哲学 CEOのベネデット・ヴィーニャが、その企業哲学から苦戦する中国市場、低迷するEU経済について率直に語った。 2021年、ベネデット・ヴィーニャがフェラーリのCEOに就任したニュースは自動車業界を驚かせた。イタリア南部出身のこの50代の男性は、いったい何者なのか? ヴィーニャ(55)は大学で物理学を専攻し、半導体・電子部品の専門家となった。フェラーリの本拠地であるイタリア北部マラネッロに来る前は、世界的な半導体企業STマイクロエレクトロニクスに勤めていた。ノーベル賞受賞者を数多く輩出していることで知られる、ドイツのマックス・プランク研究所に所属していたこともある。 ヴィーニャの経歴で際立つのは、マイクロマシン製作の分野で200以上の特許を取得していることだ。そのなかでも三次元センサーは、任天堂のコンソールの最適化や自動車メーカーのエアバッグの安全化、iPhoneの画面回転などに使われており、私たちの日常になじみ深い技術だと言えるだろう。 発明家でもあるヴィーニャは、フェラーリの電動化に向けて、大胆不敵かつ貪欲に取り組んでいる。愛想はいいが、インタビューにはなかなか応じないこの経営者は、ストア哲学の信奉者でもある。 蠱惑的な魅力を持つ、時価総額860億ユーロ(約14兆700億円)企業のCEOから話を聞いた。
EV化はもはや避けられない
──毎朝、ストア派の哲学者の名言を一日に一言ずつ紹介する『ストア派哲学入門 ──成功者が魅了される思考術』(パンローリング)を読んでいるそうですね。今日の名言は、どんなものでしたか。 『学問もせず閑暇を無為に過ごすのは死であって、生きたまま葬られているのに等しい』(セネカ『倫理書簡集』)。ワークライフバランスについて、考えるきっかけになりました。 ──どうしてストア派の哲学者の名言を読むことを毎朝のルーティンにしているのですか? 数年前、中国の通信機器大手ファーウェイと、微信(ウィーチャット)を運営するテンセントの経営陣に会ったとき、彼らがマルクス・アウレリウスの『自省録』を定期的に読んでいるという話を聞きました。 最初は胡散臭いと思っていましたが、実際に『自省録』(岩波文庫)を読むと、そこに記されている思索はどれも普遍的でした。興味を惹かれてストア派についての本を何冊か読み、これを日々続ければ、自己改善につながると実感したのです。 人類が想像力を駆使しはじめた3万年前と比較すると、現代人は微分方程式を解き、量子力学を習得し、とてつもなく複雑な概念も理解できるようになりました。 しかし感情の制御に関しては、私たちはまだ石器時代のままです。この方面で進歩していくうえで鍵を握るのが、ストア派の哲学なのです。