「たとえ金持ちでも、ふさわしくない人物にフェラーリは売らない」 伊高級車メーカーCEOが語る企業哲学
「あなたにフェラーリを買うのは無理」
──それは、ビジネスの世界でも有用ですか。 もちろんです。たとえば、自動車業界にはいまだにEV革命にブレーキがかかると考える人がいます。 しかし、電動化の流れは避けられません。もちろん、2025年からすべての新車がEVになることはないでしょう。テクノロジーの移行には、インフラの整備に加え、10~20年の長期の投資サイクルが必要です。 自動車の完全電動化に反対する人たちは、外の世界には自分の力では変えられないものがあることを忘れています。私たちにできるのは、電動化への取り組みを調整することです。平静を保ち、成功に足をすくわれないように気をつけなければなりません。 フェラーリのような企業は、しばしば現実から乖離してしまうことがありますからね。ストア派の哲学書を読むのは、そうした落とし穴にはまらないためにも有効です。 私は科学や歴史の本も読みます。2010~11年頃から、毎朝、少なくとも30分以上、読書に時間を割くようにしているんです。この習慣のおかげで多くの学びを得られました。それに比べると、(手元の携帯電話をとってみせながら)これは人を釘付けにして、信じられないほどの時間を浪費させます。 ──これまでフェラーリとはまったく無縁だった私も、1台買っていいでしょうか。 もちろんです。なかにはお手頃な価格のモデルもあります。 ──私でもイコーナ(VIP顧客向けの限定車)を買えますか。 それは無理ですね。 ──なぜですか……? それなりの道のりを経てからでないと、イコーナはお売りできません。イコーナは、フェラーリに忠実な、ごく一部の顧客のためのものだからです。その限られた顧客の外にいる方は、スタンダード・モデルをご購入されてはどうでしょう。 赤の他人とディナーをともにする人はいませんよね。それと同じです。 ──ずいぶん昔気質ですね。 フェラーリを所有するためには、単にお金を払えばいいわけではありません。それにふさわしい人物にならなければ。(続く) 欧米の富裕層向けラグジュアリービジネスが好調な一方、中国市場では苦戦を強いられるフェラーリ。ヴィーニャCEOはこの状況をどのようにして打開するつもりのなのか。後編ではEVシフトを見据えた今後の世界戦略を語る。
Beatrice Parinno