「腸内細菌」と「うつ病」の意外すぎる「関係性」…患者の「腸内で減少」する「2種類の細菌」が「突破口」を暴き出す
腸内マイクロバイオータを改善すると…?
逆に考えると、腸内マイクロバイオータのバランスを改善することにより、うつ病が改善できるかもしれません。現在、さまざまな臨床試験が行われています。 まず、ディスバイオシスによってどのような細菌が減少するのか、日本のうつ病患者(43人)と健常者(57人)の糞便中の腸内マイクロバイオータが調べられました。ここではとくに、ラクトバチルス属とビフィドバクテリウム属の細菌の数が比較されました。ラクトバチルス属は乳酸菌のことで、糖を分解して乳酸を産生します。ビフィズス菌が属するビフィドバクテリウム属の細菌は、乳酸と酢酸を産生します。 その結果、うつ病患者は健常者よりビフィドバクテリウム属の数が統計的に有意に少なく、ラクトバチルス属の数も低下していました。つまり、この2種類の細菌数が減ると、うつ病のリスクが高くなることが示唆されたのです。 この研究には続きがあります。乳酸菌飲料やヨーグルトなど、プロバイオティクスを含む食品を摂取する頻度と腸内マイクロバイオータとの関係についても調べられました。すると、うつ病患者において、週に1度未満しかプロバイオティクスを含む食品を摂取しない人は、週1度以上摂取する人と比較して、糞便中に含まれるビフィドバクテリウム属の細菌数が統計的に有意に低かったのです。このことから、プロバイオティクスを含む食品を摂取する習慣が、ビフィドバクテリウム属の菌数に影響を与える可能性が示唆されました(※参考文献6-13)。
プロバイオティクスの摂取でうつ病は改善するか?
それでは、プロバイオティクスを含む食品を定期的に摂取することは、うつ病の改善にもつながるのでしょうか? オーストラリアのシドニー工科大学において、71人のうつ病患者に対して、34人にはプロバイオティクスを、37人にはプラセボを8週間投与し、うつ病の症状が改善するかどうかの臨床試験が行われました。試験中には、発酵チーズやヨーグルトなどのプロバイオティクスが豊富な食事や飲料の摂取はしない、また、抗菌剤や抗うつ剤の服用もしないよう条件が設定されました。 なお、本試験で用いたプロバイオティクスは、ビフィドバクテリウム属とラクトバチルス属の細菌を含む9種類(Bifidobacterium bifidum:ビフィドバクテリウム ビフィダムW23、Bifidobacterium lactis:ビフィドバクテリウム ラクティスW51およびW52、Lactobacillus acidophilus:ラクトバチルス アシドフィルス W37、Lactobacillus brevis:ラクトバチルス ブレビスW63、Lactobacillus casei:ラクトバチルス カゼイW56 、Lactobacillus salivarius:ラクトバチルス サリバリウスW24、Lactococcus lactis:ラクトコッカス ラクティスW19およびW58)の混合物です。 参加者のうつ病の症状については、抑うつ、不安、ストレスといったネガティブな感情を測定するためのDASS(Depression Anxiety Stress Scales)、ベック抑うつ質問票(BDI: Beck Depression Inventory)、ベック不安評価尺度(BAI: Beck Anxiety Inventory)といった3種の心理検査によって評価されました。