アフリカで矢が刺さったままドイツに 「鳥の渡り」を証明したコウノトリ
目撃例は弓矢から銃への転換が世界的に進むにつれ珍しくなっていった
「矢コウノトリ」は、矢が刺さったままヨーロッパにやってきた唯一の渡り鳥というわけではない。20世紀前半に活躍したドイツの鳥類学者エルンスト・シュッツは、矢が刺さった渡り鳥に関する複数の記録を残している。タンガニーカ(現在のタンザニアにあたる旧ドイツ植民地)のアオハシコウ、ハンガリーのチュウヒワシ、フィンランドのハチクマ、トビなどだ。シュッツはまた、イヌイットの矢が刺さったハクチョウとケワタガモにも触れている。 シュッツは続けて、こうした目撃例は弓矢から銃への転換が世界的に進むにつれ珍しくなっていったと述べた。 ■「矢コウノトリ」の渡りルート 渡り鳥であるシュバシコウ(学名:Ciconia ciconia)は、繁殖地と越冬地のあいだの長距離移動をすることで知られている。主な繁殖地はヨーロッパ、北アフリカ、アジアの一部であり、湿地、牧草地、農地などの開けた環境を好む。 渡りの際、シュバシコウは2つの主要ルートのいずれかを利用する。東部回廊と呼ばれる、バルカン半島、トルコ、中東を通過して東アフリカの越冬地に至るルートと、西部回廊と呼ばれる、イベリア半島を通って西アフリカに向かうルートだ。 シュバシコウは、熱上昇気流を利用した帆翔(はんしょう:ソアリング)によってエネルギーを節約するため、渡りの際には、海面などの大きな水塊を避ける。この行動傾向から彼らは、トルコのボスポラス海峡やイベリア半島のジブラルタル海峡など、海上飛行を最小限に抑えられる陸上ルートをたどる。 繁殖地を離れる秋の渡りは8月から10月に行われ、サハラ以南アフリカにある越冬地まで、最長1万3000kmの旅をする。春の渡りは1月から3月に始まり、5月までに繁殖地に到着する。 多くのシュバシコウは、こうした古くからのルートをたどりつづけているが、西ヨーロッパの一部の個体群は、暖冬と豊富な食料供給に適応し、渡りをやめて繁殖地の近くで越冬するようになった。 このように、適応能力に優れた種ではあるものの、シュバシコウは生息地の破壊、狩猟、気候変動といった脅威に直面している。
Scott Travers