共働きでの子育てのモヤモヤ、最大の原因は「孤立」-解決のヒントは「受援力」と「自己開示」【対談】
「とにかく時間がない!」 「夫婦間で家事や育児をどう分担する?」 「ちゃんと子どもと向き合いたいのに疲れてしまって……」 世帯収入が安定するなど、共働き子育てのメリットはたくさんあるものの、忙しい毎日の中でさまざまな悩みを抱えるご家庭も多いのではないでしょうか。 また、これから共働きでの子育てを検討しているかたのなかにも、漠然と「やっていけるかな」と不安を抱えているかたもいらっしゃるかもしれません。 共働きでの子育てではなぜさまざまな課題が生じるのでしょうか? 悩みを乗り越えるために、夫婦はどんなアクションを起こせばいいのでしょうか? そして周りができることは? 共働きの課題について詳しい、産婦人科医・産業医で父親の育児支援を行う一般社団法人Daddy Support協会代表の平野翔大先生と、社会運動論を研究し、ご自身の出産の際の葛藤(かっとう)を明かし話題になった立命館大学准教授の富永京子先生に、語っていただきました。 <プロフィール> 平野翔大先生 産業医、産婦人科医、医療ジャーナリストとして活躍。2022年に一般社団法人Daddy Support協会を設立し、代表理事として父親の育児支援に向けた情報提供や環境整備のための活動を展開している。著書に『ポストイクメンの男性育児 妊娠初期から始まる育業のススメ』(中公新書ラクレ)がある。たまひよ「子育てのミライ応援プロジェクト」で投票数1位に。 富永京子先生 立命館大学産業社会学部准教授。主専攻は社会運動論・国際社会学。社会運動・政治参加の文化的側面に注目し、現代社会におけ人人々の政治参加・社会運動への抵抗感に関する研究に取り組む。著書に『みんなの「わがまま」入門』(左右社)、『社会運動のサブカルチャー化―G8サミット抗議行動の経験分析』(せりか書房)など。
子育て中は「孤立」が最大の敵
平野:私は産業医として複数企業とお付き合いがありますが、育休明けの男性社員で心身の不調を訴える人が一定数みられます。男性で育休を取得する人は数年前から増えていますが、「休職明けは育休前と同じ成果を出す」がなんとなく前提となっている企業が多く、「とにかくしんどい」と感じる原因になっています。 富永:「しんどい」と思ったときに産業医の先生に相談するのは、男性ならではという気がしますね。男性と女性の社会関係資本を比べた場合、男性のほうが相談相手が少ないというデータは多く出ています(石田光規『孤立の社会学』など)。 女性の場合は出産後、産婦人科や実家の親、ママ友などの前で、不安や悩みをオープンに訴える人が多いのかもしれないですね。私自身も出産後、仕事で出会った女性とママ友のように共感しあえることがあって、それが案外精神的な支えになっているのかも。 でも男性は、助けを求める場所を見つけられる人が少ないのかもしれないですね。 平野:多くの女性はおもに出産後、ホルモンバランスの変化などが原因で、いわゆる「マタニティーブルー」を経験します。症状の出方は人それぞれですが、マタニティーブルーによる不安感は子育てでは実は大切なことで、この経験をきっかけに、周囲を頼って子育てができるようになるかたもいます。 産婦人科医の吉田穂波先生は、人に頼るスキルを「受援力(じゅえんりょく)」という言葉を使って説明しています。男性は身体の変化がないぶん、受援力を身に付ける機会がないまま育児も仕事もがんばろうとする傾向がみられます。仕事は仕事、家庭は家庭、ときっちり分けて考えようとする人は多いけれど、人間のキャパシティは1つの大きなコップのようなもの。どちらも10割の力を出そうとすると、コップから水があふれてしまいますよね。 男性も女性も、孤立し「ひとりでがんばらなくては」となってしまう状態は非常に危険だと思います。