共働きでの子育てのモヤモヤ、最大の原因は「孤立」-解決のヒントは「受援力」と「自己開示」【対談】
富永:そうですね。自分自身はごく限られた人にしか妊娠を明かさず、しばらくは出産も公開しなかった「孤立」の状況でした。孤立の何が辛いかって、その苦しみが自分だけのものだと思ってしまうこと。そうなると「楽しそうな人」を見るだけで心にきてしまう。 SNSで同業者の男性がキラキラしたパパの姿をたくさん投稿しているのを見て、「あなたたちは出産しなくていいんだから気楽よね……」と暗い思いに襲われてしまって。パパたちからしたら理不尽な怒りを投げつけられているだろうという感じなのですが、出産を公表したあとに他の女性にその感覚を伝えたら「あるある」と……。 今考えると、キラキラして見えるパパにしたって、楽しんでパパをやれているかたももちろんいると思うのですが、その裏では闇を抱えていることもあるんだろうなと……。どうしても育児中は孤独になりやすいですよね。
富永:また、家庭内での「頼る」を巡る議論で面白いものに、家事の「スキル」を論じた筒井淳也先生の議論(『仕事と家族』)があります。スキルのある側が家事をやってしまって、下手なほうの人に頼れない。その結果、どちらかの負担が増えている場面もよくありそうです。 職場でも家庭でも、仕事が上手な人は「自分がやったほうが早い」と思いがちだけど、そこで我慢して見守るのも長い目でみると重要かもしれません。 平野:女性が出産時期の数か月を実家で過ごす「里帰り出産」も一因ではないでしょうか。男性は子どもの誕生から数か月遅れて育児に参加することになるため、その後すぐに女性と同じように育児をするのは無理があります。育児は手技の積み重ねでもあるので、いきなりやろうとしても難しい。 妊娠中など早い段階から男性も女性の体の変化を理解し、育児や家事の分担を早めに実践しておくことが大事です。
共働きでの子育てを乗り越えるために、まずはモヤモヤを言葉にしてみる
富永:既に育児スキルや意識の差がある場合、埋めるためにはどうしたらよいでしょうね? 平野:1~2時間でも構わないので、お子さまを実家に預けるなりして夫婦だけの時間をつくり、現状の課題があればそこで話し合ってほしいですね。お子さまがその場にいると目が離せず、冷静な話し合いができないと思うので。 富永:確かに、近しい関係であればあるほど、言語化が必要だと私も思います。ただ、私が専門としている社会運動論では、いわゆる「話し合い」における発言力はその人が持っている資源の多寡で決まるとよく言われます。すべての人がロジカルに、冷静に話し合いができるわけではない。さらに言えば何がロジカルで冷静というのもその場において発 言力がある人が勝手に決めるルールでしかない。そのなかで、どうすれば公平な話し合いを実現できるでしょうか? 平野:やはり、メモにまとめるなどして話し合いたい内容を整理するしかないかな、と感じます。とはいえ、「うまく言えないけどイライラする、どうにかしてほしい」という言語化しづらい思いもありますよね。 富永:モヤモヤしていることを言語化するのにはリテラシーが要りますよね。私は、パートナーにいきなりぶつからず、まずは同性の友達や実家の親など自分の味方になってくれそうな人に話をして、「何がつらいのか・大変なのか」を少しずつ形にしていけばいいのかな、と思います。それこそ匿名SNSとかでもいいのかもしれない。言葉にする過程で、課題と感じていたことを解決できるかもしれないし。 平野:職場でも、もっとざっくばらんに自分の状況を開示してもいいですね。今は《個》が強い時代なので、互いに他人の事情に口を出さないぶん、つらいときにちょっとしたグチやモヤモヤを吐き出すのが難しくなっている。 自分だけで抱え込むことが続くとメンタルの不調につながりやすいので、職場で雑談する機会に自分の状況を話すだけでもやってみてはどうでしょうか。自己開示をしてもらえれば、相手も「ここまでは踏み込んでよさそうだな」とわかりますよね。