共働きでの子育てのモヤモヤ、最大の原因は「孤立」-解決のヒントは「受援力」と「自己開示」【対談】
富永:私も、担当している授業で、1人につき3分間で学生に自己紹介をしてもらおうとしたのですが、「他人の時間を奪うのが申し訳ないから、手短に簡潔に」という感覚が強いようで、みんな持ち時間を使い切らずに終えてしまう。それって学生に限らず私たちでも同じで、「話が長い」ってどちらかといえば悪口としてとられがちですよね。 もっとムダがあっていいのでは、と思います。企業においても、「こんなこと言っても無駄かな、他人の時間を奪ってしまっているんじゃないかな」と思わずに自己開示をすることがチームビルディングに役立ち、生産性を上げる一助になり得るのではないでしょうか。
子育てしやすい空気づくりのために、一人ひとりができること
富永:会社の規定などで子育てに不便なところがあるなら、労働組合や人事・総務に訴えるなどの形で、もっとアウトプットしてもいいと思います。企業には、ほかにも共働きでの子育てに奮闘している人はいるはずで、休業や時短について言うと、介護や働く人自身の傷病・疾患にも関わるかもしれない。自分が子育てで感じる不便・不満を声に出していくことは、「自分のわがままの解決」ではなく、ほかの人の幸せにつながることなんだとマインドチェンジしてほしいですね。 平野:社内SNSや交流の場を活用して、社内で同じ意見をもつコミュニティーをつくってから会社側に要望を言ってもいいですね。 私がお付き合いいただいているある企業では、休職明けの社員が所属するコミュニティーがあって、いろいろな部署や役職の人が交流できるんです。そこで「現状のこの制度は不便」といった声が多ければ、コミュニティーの総意として会社側に上げていくので、意思決定層としても考慮しやすくなります。 共働き子育て中の当事者や社会保険労務士、産業医なども交えて議論しながら進められれば、よりよい制度をつくりやすいでしょう。
富永:議論をしていくにあたっては、子育てを経験していても、自分の世代の価値観を下の世代に押しつけないことも大切ですね。NHKが5年おきに「日本人の意識」という調査を実施しているのですが、世代によってこれほど価値観が違うのかということに驚きます。学生が「うちの親は考えが古いから」と言いながらも親の意見を真に受けて、就職などで迷っている姿をよく目にします。ベネッセ教育総合研究所が行った調査※でも、「性別による役割観に影響を与えている要素」に「自分の親」があったように、子育ての領域も、親や先輩夫婦からのアドバイスに支配され続けている気がします。 でも、これだけ共働きが増えている中で、かつての親世代が実践してきた子育ての在り方を理想像とするのは難しい。 先日、ある新聞社の女性記者の方々とお話したんです。先輩の女性記者が、出産を希望する女性記者に「私は出産していないけれど、共働きでの子育てを経験した人を紹介するから安心して産んでね」とエールを送っているそうです。 私自身は共働きかシングルかは公表していないし、平野先生も共働きで子育てしているわけではないですが、それでも話を聞いたり、専門知識を提供したりすることで共働き夫婦の方々の力になれるかもしれない。 「自分は経験者じゃないけど応援しているよ」という励ましは、とても力になります。私もそうありたいですね。 平野:その夫婦なりのパートナーシップを尊重するのと同時に、しんどいときに気軽に助けを求められる場所をつくる。バランスが難しいですが、周りの人は意識しておくことが大切だと思います。 ※「乳幼児の保護者のライフキャリアと子育てに関する調査」ベネッセ教育総合研究所
まとめ
「共働き子育て」の在り方に正解はありません。 ただし、「自分たちにとってベストな方法を話し合って決める」「家庭内で解決しなければ、と思う必要はない」などの考え方は大きなヒントになりそうです。 「受援力」を高めて、周りとコミュニケーションをとりながら乗り越えていきたいですね。