夢はろう者として仮面ライダーに出ることーーろうの俳優が聴者と切り開く新しい世界
俳優の山口文子さんは昨年、舞台で聞こえる息子と暮らすろうの母親の役を演じた。自身もろう者だ。「ろうの役を聞こえる人が演じているのを見ると、やっぱり抵抗感があるというか、腑に落ちないところはあります」。そもそも、映画や演劇を楽しむことにすら、言葉の壁がつきまとう。山口さんはその壁をどう乗り越えようとしているのか。山口さんと母、聴者の友人と演出家に話を聞いた。(取材・文:長瀬千雅/撮影:宗石佳子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「頭の中は手話で考えている」手話ネイティブの生い立ち
山口文子さんは、ろうの俳優である。大阪を拠点に活動する。今月神戸で上演される演劇で主要な役どころを務める。7年前に当時勤めていた会社をやめた。 「はっきりと『私は俳優になる』と言ってやめたのですが、みんなに『絶対無理だ』と言われました。今こうして演じることができている自分が誇らしいです」 出演するのは、ドイツの劇作家が書いた『テロ』という裁判劇。山口さんは裁判長を演じる。出演者は全部で11人。ろう者と聴者がまざっている。聴者の一人は全盲である。 「一般的な演劇は、聞こえる人が演じて聞こえる人が見る演劇です。一方で、ろう者が演じてろう者が見る演劇もあります。福祉の公演以外で、両方が一緒に演じるものを私は見たことがありませんでした。だったら、私がその舞台に立ちたいと思ったんです」 山口さんはろうの両親のもとに生まれ、手話で育った。母の久賀子さんによれば、山口さんが生まれてまもなく、音に反応していないことに久賀子さんの母が気づき、検査をして聞こえていないことがわかった。2歳から幼稚園まで生野ろう学校に通い、小学校から難聴学級のある通常の学校に通った。
久賀子さんによれば、山口さんは読書が好きな子どもだった。 「私がすすめたわけではなく、どこからか自分で選んできた本を読んでいました。同じろう者でも(私とは)違うんだなと思ったのを覚えています」 手話を第一言語として育った山口さんにとって、書記日本語は第二言語だ。小学校のときこんな体験をした。 「国語の時間に文章を書くんですけど、日本語だという意識はなくて、先生に言われるままに見たものをそのまま書いていたんです。それが、小学3年生ぐらいのときに、『これが日本語の文章なんだな』とわかったんです。マンガも、絵だけでなく吹き出しの中も読むようになって、こんなにおもしろかったんだと思いました」 手話を使う人にもさまざまな人がいるのであくまでも「山口さんの場合は」だが、思考するのは手話で、少し長い文章を書くときは「頭の中で手話を日本語に変換するような感じ」だという。