夢はろう者として仮面ライダーに出ることーーろうの俳優が聴者と切り開く新しい世界
ろう者はお客さんにカウントされていないの?
山口さんは「聞こえる人の劇」を見るのが好きだ。はじめて見たのは『忍たま乱太郎』のミュージカル。原作のマンガを愛読していた。 「これがミュージカルになるってどうやるんだろうと思って、自分の目で見たいと思ったんです。マンガを読んでいるからわかるかなと思って、決心して見にいきました」 今からおよそ10年前。アクセシビリティーや情報保障という言葉は今ほど普及していなかった。 「はじめはどのようにして楽しむかわからなくて、とにかくあちこち見にいきました。そうするとやっぱり内容を知りたくなります。どうしたらいいかと考えて、劇には台本があると。ある劇団に『私は聞こえないので台本を借りられますか』と依頼したら貸してくれて、それ以来、事前に台本を読ませてもらえないかと連絡するようになりました」 1時間か2時間早く劇場に行って読んだら返却する。前もって郵送してくれるところもあった。しかし断られることのほうが多かった。 「著作権があるからできないとか、ネタバレになるからとか、ほかの人に見られると困るからとか、いろんな理由で断られました」
山口さんには聴者の観劇友だちがいる。名前を伏せたいということで、ここでは幾子さんと呼ぶ。幾子さんは、山口さんと見ると同じ作品でもどこに感動したかが違ったりするのが楽しいという。同時に、一人で見ていたときには気づかなかった悔しさを味わうことがある。 知り合ったのは7年ほど前。そのころ幾子さんはユニバーサル・スタジオ・ジャパンの『ワンピース・プレミアショー』に夢中で、ツイッターで「3人で行く予定でしたが1人体調不良で行けなくなり、1枚余っています。残り2人は耳が聞こえません」という書きこみを見つけた。譲ってくださいとメッセージを送り、当日ウォーターワールドの入り口で会うことになった。 そこにいたのが山口さんとその友人だった。幾子さんはノートに「今日はありがとうございます!!」「お2人はONE PIECEではどのキャラが好きですか?」などと書いて準備していった。気遣いが喜ばれたかと思いきや、「そうではない」と言う。 「お二人は手話でやりとりされるけど、私はわからないわけで、書いてもらわないと困るのは私だったんです。会話できてうれしかったのは、私のほうなんだろうと思います。その後、聞こえる私がろうの方や手話と付き合っていく上で、このときの経験は大きかったです」