誰も見たことのない「生き物」を生み出す 世界的にも注目される特殊メイクアーティスト・快歩
■常にハッピーではなく 自分のペースで生きている 見えないものをこの世に出現させたい。それが快歩の原動力だ。特殊メイクに加え、布やレース、ウレタン、ビーズ、あらゆるものを使って創作をする。例えば68ページの写真にあるカラフルで巨大な生き物は背負子で人が背負えるようになっていて、24年夏、茨城県ひたちなか市の国営ひたち海浜公園で行われた音楽フェスの会場を、ダンサーに背負われて闊歩(かっぽ)した。興味を惹(ひ)かれた子どもたちがぞろぞろとそのあとをついて行く様は、さながら「ハーメルンの笛吹き男」のごとくシュールで愉快な光景だった、と快歩は笑う。 またあるときは「アフワ」のようにモデルに特殊メイクを施し写真や動画に収める。快歩が生み出す生き物たちは、ユーモラスでファニーでちょっとだけ怖くて、でもどこか哀愁をまとっている。 「現実世界に彼らを生み出している感覚なので、現実にいるものが綺麗すぎるとか可愛すぎるのは、嘘だと思っていて。常にハッピーではなくて、みんなそれぞれ自分のペースと考えを持って生きている。そんなキャラクターのバックボーンがみえるように意識してやっているかもしれない」 俳優で映画監督の竹中直人(68)はそんな快歩ワールドに魅了されている一人だ。ある撮影現場で出会って以来その仕事ぶりに感嘆し、監督作「ゾッキ」(2021年)に参加してもらった。 「快歩の作品は『妖怪人間ベム』じゃないけれど、どこか日陰にいる存在、という感じがありますよね。隠れながら存在している。ひっそりと鋭く主張する。さりげなく尖っていて。気持ち悪いんだけれど、ギリギリ可愛いってわけでもない。でもどこかお茶目で……」 年の差など気にしない2人は、飲み友だちでもある。 「初めて会った瞬間、本能的に『いい感じ』って思って、好きになっちゃったんです。仕事も丁寧で誠実。それに本人も妖しげでどこか妖怪的じゃないですか」(竹中) ■空想にふけり絵を描く 『墓場鬼太郎』に惹かれる そうなのだ。カーリーヘアにつるんとした肌の中性的なルックス。柔和な印象ながら、実は空手有段者というギャップ。快歩という青年はどこか「妖し」の雰囲気すらまとっている。 快歩は1996年、名古屋市に生まれた。4人きょうだいの一番上だ。快く好きな道を歩いてほしい、の意味で快歩と名付けたのは父・宏幸(53)と母・愛(53)。ともに市内の工芸高校インテリア科の同級生で、父・宏幸は卒業後、日本でアルバイトをしてはメキシコを放浪していたというなかなかファンキーな人物だ。あるとき地元で再会した2人は結婚し、古いアパートの1階で花屋とカエル雑貨の店を営むことになる。1年後に快歩が誕生。数年後、一軒家に引っ越すまで赤ん坊の快歩は花屋の土間に置かれたかごの中で眠り、早朝の市場での仕入れに同行した。二人は回想する。