「年収の壁」を全て取り払っても解消しないラスボス“時間制約の壁”をなくす2つのアプローチとは?
■ 時間制約の壁を緩和させる“1億総しゅふ化”の推進 一方、時間制約の壁自体をなくすための努力も必要でしょう。こちらには大きく2つのアプローチがあります。1つは、壁を今よりも後ろへと遠ざけることです。時間制約の壁はほとんどの場合、女性だけの前に立ちはだかっています。 総務省が公表している「我が国における家事関連時間の男女の差」によると、2021年の6歳未満の子供を持つ夫・妻の家事関連時間は、夫が1日当たり1時間54分。それに対し、妻は7時間28分です。合計すると、夫婦で9時間22分になります。これを半分にすると1人当たり4時間41分です。妻からすると、1日当たり2時間47分も時間制約の壁が後ろにズレることになります。 もちろん、夫婦間の家事育児のバランスはご家庭ごとに最適解が異なります。完全に半々にすることがベストかどうかは一概に言えないものの、夫婦の話し合い次第で女性に偏っている時間制約の壁を緩和することは可能なはずです。 もう1つのアプローチは、時間制約の壁をできる限りゼロに近付けることです。かつての標準家庭モデルのように、夫婦いずれかが家庭に専念して専業主婦・主夫になることも方法のひとつになります。そうすれば、一方は仕事に専念でき時間制約の壁がなくなります。 あるいは親と同居して家オペレーションをお願いしたり、相応の費用がかけられる収入が得られる場合は、家事代行やベビーシッタ―などの有料サービスを毎日利用して任せるといった方法もあります。 ただ、それでも時間制約の壁を完全に取り払うことはできません。イレギュラーな事態は起きてしまうものですし、専業主婦・主夫でも全てに対処しきれなかったり、体調を崩してしまうこともあります。 また、子育ては一時だけの貴重な時間であり、完全に他人任せにすることを良しとしない人もいるでしょうし、専業主婦・主夫世帯になれば、夫婦どちらかは職業キャリアをその間中断することになります。 家のことを夫婦間で協力して対処するのであれば、まずは女性に偏っている時間制約の壁を男性とシェアして後ろへとズラすことが基本的なアプローチになりそうです。それは見方を変えると、時間制約の壁が女性だけを束縛するものではなくなることを意味します。 夫が主夫として家庭に携わるケースが増えれば、性別にかかわらず誰もが家周りのことに主体的に取り組む“1億総しゅふ化”が進んでいきます。それと同時に、時間制約の壁も女性だけではなく、夫婦両方の前に立ちはだかる課題として認識されていくことになるのではないでしょうか。
川上 敬太郎