「年収の壁」を全て取り払っても解消しないラスボス“時間制約の壁”をなくす2つのアプローチとは?
■ 年収の壁を粉砕しても“釈迦の掌”からは出られないワケ 苦労してようやく年収の壁を取り払ったと思っても、その先には西遊記で孫悟空の前に立ちはだかった「釈迦の掌」のごとく、大きくて分厚い時間制約の壁が立っています。時間制約の壁とは、基本的に家庭の事情によって生じている壁です。そのため、扶養枠などの収入上限を変更したところで、時間制約の壁によって生じる働き控えは解消されません。 年収の壁によって生じる働き控えは、働き損が出ることを避けようとする制度上の要因です。この状況を逆から捉えれば、もし時間制約の壁を解消できれば働きたいと希望する人はいくらでも働けるわけですから、年収の壁の存在自体の意味が実質的になくなります。つまり、時間制約の壁とは、年収の壁の後ろに控えるラスボス的な存在なのです。 しかしながら、時間制約の壁は家事や育児、介護など生活していく上で避けようのない事情によって生じるため、完全に消し去ろうとしても難しい面があります。それならば、時間制約の壁の中をできる限り充実させる方法を考えることも必要です。 その方法には、大きく3つのアプローチがあります。1つが、制度視点のアプローチです。年収の壁を生み出しているさまざまな制度を粉砕することもこの中に含まれます。あるいは、最低賃金を大幅に上げれば法的拘束力があるだけに時給相場が一気に上がります。 いま最低賃金の全国平均は1055円ですが、石破茂首相は2020年代までに1500円にまで引き上げると述べました。いまの1.5倍近い水準です。もし時給1000円で年収が100万円の人がいた場合、最低賃金が1500円になれば年収は150万円になります。そうすると扶養を外れても働き損を上回る手取りが得やすくなって、時間制約の壁ギリギリまで働く人が増える可能性があります。 次に、ワークスタイル視点のアプローチです。職場がテレワーク環境を整えて在宅勤務がしやすくなれば、通勤に費やしていた時間が可処分時間に変わります。その時間は自由に使うことができ、家オペレーションや仕事に回すこともできます。もし通勤に毎日片道1時間かけていたら、往復で2時間分。この時間を毎日好きに使えれば、生活は劇的に変化することでしょう。 あるいは、石破首相が所信表明演説の中で「大いに活用すべき」と言及したように、短時間でも正社員としてやりがいと責任を持って働ける短時間正社員制度を普及させれば、相応の成果も求められる一方で短時間労働でも高い賃金を得られることが期待できます。 最後3つ目は、労働市場視点のアプローチです。採用競争がさらに激しくなれば、職場は働き手から選ばれるためにより良い勤務条件を整備する必要が出てきます。その結果、賃金が上昇すれば政府が最低賃金を上げるのを待たずに、労働市場の賃金相場が上昇していくことが期待できます。また、在宅勤務やフルフレックスなど魅力的なワークスタイル環境の整備も進んでいく可能性があります。