「年収の壁」を全て取り払っても解消しないラスボス“時間制約の壁”をなくす2つのアプローチとは?
■ 「103万円の壁」撤廃で増えた手取り額は結局相殺される! 東京都で働いている人が加入要件となる月額8万8000円の収入を得た場合、介護保険料も含めた健康保険料は月に5095円。厚生年金保険料は8052円で、合わせると社会保険料は1万3147円。年間だと15万7764円です。 ギリギリでも月額8万8000円に届かなければ社会保険料はかからないので、8万8000円に到達するか否かを境に、手取り額で年15万円以上の働き損が発生する計算になります。家計を考えると決して無視できない額です。 もし、国民民主党が主張しているように所得税がかかる下限が103万円から178万円に引き上げられた場合、差額75万円の収入に所得税がかからなくなる分、手取りが増えます。しかし、この施策が実現しても106万円の壁が撤廃されると月額8万8000円未満でも社会保険料がかかるためその分手取りが減り、効果は相殺されてしまいそうです。 とはいえ、年収130万円を超えて社会保険の扶養枠から外れる場合とは違い、106万円の壁を超えた場合は国民年金だけでなく厚生年金にも加入することになるため、将来受け取れる年金額が増えます。それでも106万円の壁を撤廃することに反対する声が聞かれるのは、日々の生活に使える手取りの方を重視している人もいるからに他なりません。 年収の壁は、他にいくつも存在します。住民税がかかる100万円の壁や所得税の配偶者特別控除が減額される150万円の壁、同控除がゼロになる201万円の壁などです。これら年収の壁軍団を一枚ずつ粉砕していけば、やがて年収の壁問題は解消されることでしょう。 しかし、年収の壁各種はすでに人々の生活の中に深く浸透しており、老後に受け取る年金にも関わってくるだけに人生設計に大きな影響を及ぼします。また、本当は働きたい思いがあるのに、家庭の状況やご自身の体の不調など、さまざまな事情で働いて収入を得ることができない人もいます。 制度変更を重ねれば年収の壁はすべて粉砕できるかもしれませんが、致し方ない事情で働けない人たちへの配慮や激変緩和措置を講ずるなど、長い年月をかけて変えていかざるを得ないはずです。 そんな努力を長年積み重ねてようやく年収の壁が全て取り払われた時、働く意思を抑えてしまっていた人たちの働き控えはついに解消されるのかというと、そうはいきません。なぜなら家事や育児、介護といった家庭の事情によって働く時間が制限される「時間制約の壁」が厳然とそびえているからです。