選手のためにも、誹謗中傷と闘う準備をしていかなきゃいけない――田嶋幸三・JFA前会長の8年、そしてこれから #ニュースその後
アジアで勝つのは当たり前、とてんぐになっていたかも
2024年1~2月に開催されたアジアカップが、会長在任中最後の国際大会(W杯予選を除く)になった。しかし日本代表は準々決勝でイランに敗れ、優勝で田嶋の花道を飾ることはできなかった。 「もうアジアで勝つのは当たり前だって、きっと選手もサポーターも、ファンの皆さんもみんな思っていた。特に去年は、W杯明けからずっと強い国と対戦できて、高い評価を受け、若干、てんぐになってないかと心配な部分もありました。そういうときに、ちょっと鼻をへし折られた形ですよね。悔しいですが、イラクやイランのように、守備を固めながらロングボールをバンバン放り込んでくるところへの対処の仕方が教訓になったんじゃないかなと思っています」
大会中には、伊東純也選手の途中離脱もあった。 「伊東選手については、もちろん彼の行動が褒められることではないということは本人も分かっていますし、そして社会的な制裁というのも十分受けていると思います。ただ、私は代表チームの選手も、職員も含めて家族だと考えています。家族が言っていることは、やっぱり信用してあげたい、そういう気持ちが一番でした。伊東選手も、やっぱりプレーで表現するしかないサッカー選手ですから、そういう場がフランスで彼に与えられているのはよかった。 (当時の対応が)二転三転したっていうことを、いろいろ言われましたが、最終的に代表選手を決めるのは森保監督なんです。私たちが特定の選手を選ぶなとか、選べとか言うことはできません」
やはり地上波で見られる機会は重要です
「強い代表」がサッカー人気には不可欠と訴える田嶋。ただ並行して、その活躍を目にする機会を増やすことも必要だろう。最たる例が国際試合のテレビ中継だが、この数年来、特に地上波で見られる試合数が減っている。 「サッカーに限らず、ラグビーや野球にしても、国際大会などをきっかけに『よし、見てみようか』というときに、見られないのはもったいない。それこそ、国を挙げた盛り上がりも生まれないでしょう。去年のWBCや2019年のラグビーW杯もそうでしたよね。国民的関心事として盛り上がっていくことを考えても、誰もが見られるユニバーサルアクセス、特に地上波はまだまだ大切だと思っています。 もちろんボクシングのように、お金を払わなきゃ見られない試合があってもそれはそれでいいでしょう。ただ、逆にいいボクサーの試合を見られる人はかなり限定されてしまう。ニュースでそのボクサーのすごさが報じられても、伝わりきらない部分がある。だから、サッカーの国際試合はそうなってほしくないなと」
放映権料の高騰も背景にはありそうだ。 「かつては日本が支えていたところを、中国だったり中東だったりが担うようになった影響は確かにあります。地上波やインターネットを使ったユニバーサルアクセスの確立は、会長としてやり残した課題ですね。もっとデジタル化を進めて、例えば少年サッカーから代表戦まで、日本中の全ての試合を見られるというような構想も含めてね。おぼろげにイメージはできるけど、それを具現化してデジタル系のベンダーさんたちに伝えることまではできなかったですから。やっぱり次の世代の人たちに、それを託したいなと思っています」 (取材・文:安藤智彦)