給食で相次ぐ「子どもの窒息事故」はなぜ起きる?歯科医師が教える「身近な食べ物」を使った「お口のトレーニング」
歯だけでなく、舌、鼻などが関係する
前述したチェック項目の(10)に「お口ポカン」とありますが、日本で初めてこの症状について行った新潟大学の調査(2021年)によると、日本の児童30.7%が唇が半開きであったと報告しています。また、お口ポカンの児童に地域差や性差はなく、年齢とともにお口ポカンの児童は増加している傾向で、自然改善が期待できないことも判明しました。 お口ポカンの児童では、本来の鼻呼吸ではなく口呼吸になり、健康への弊害が少なくありません。口呼吸を鼻呼吸に変える体操を普及させる活動を行うあいうべ協会によると、口呼吸のデメリットには以下のものが挙げられます。 ・口の中が乾燥する(口臭の原因) ・風邪やインフルエンザなどに感染しやすい ・酸素の取り込む量が少なくなる(鼻呼吸に対して口呼吸では10%減少) ・脱水しやすい状態になる ・歯に汚れがつきやすい(虫歯の原因) ・顎の成長が悪くなる(歯並び・噛み合わせが悪くなる) ・姿勢が悪く、運動機能が劣る ・喘息リスク2倍、アレルギー性鼻炎リスク4倍 ・味覚障害 また舌の位置を気にした事のある人は少ないかも知れませんが、口を閉じて唾液をゴクンと飲み込んだ時に舌は上顎に着く状態が正常な位置になります。しかしお口ポカンでは舌が低い状態(低位舌)になり、いびき、むせ、口臭、舌の形異常(周辺がギザギザになる)、滑舌が悪くなる、くちゃくちゃ(音を立てて)食べるなどの原因になります。
グミ、ガムを噛むことで口腔機能向上
口腔機能発達不全症は病気であり、自然改善が期待できないので、早い時期での積極的な治療が必要になります。治療はそれほど難しくなく、歯科医院で検査を受け、その状況により適切なトレーニングの指導を受けます。早期に取り組めばそれを自宅で行うだけで、ほとんどの症状は短期間で改善します。自己判断ではなく、歯科医院での適切な指導、管理が大切です。 基本的な「噛む」事を成長させたいなら、グミやガムを使用したシステム化された商品が歯科医療メーカーから商品として発売されています。「口腔機能」「ガム」「グミ」で検索すると最も上段にヒットしますから興味がある方はご覧になってください。成長に有効な硬めで大きめの専用のグミとガムで、アプリでチェックしたり、成長状況を簡単に比較したりすることができます。 また前者の商品ではなく、ガムを使用する別のトレーニング方法は「噛む(咀嚼)」「飲み込む(嚥下)」などの成長をバランンスよく促すことができるので、ご紹介します。この方法は「ガムトレーニング」と言い、シュガーレスで硬めのガムを選びます。 ガムを噛む時の姿勢は踵がしっかり床につくように椅子に腰掛け、背筋を伸ばしてください。ガムを口の中に入れ唇を閉じて、左右均等に奥歯でガムを5分以上噛みます(慣れるまでは3分程度でも結構です)。ガムが柔らかくなったら、舌でガムを丸めて舌の先端に置き、唾を飲み込んでください。この際に舌の先端にあるガムが上顎の中央からノド側に広がるように意識してください。これを繰り返すことで、唇を締める力、噛む力、舌の力が強化され、舌の位置の矯正にもなり、口腔機能は向上します。また噛み合わせが改善することが期待できる可能性もあります。 唇の力(口唇閉鎖力)を鍛えるには、(専用の器具もありますが)洋服のボタンを使用する簡単な方法(ボタンプル)もあります。直径25mm程度の薄めの2つ穴ボタンにタコ糸を通して、長さ10~20cm程に調整してください。前歯と唇の間に紐のついたボタンを入れて、紐を顔の正面から引っ張ってボタンが口から出ないように唇に力を入れてください。これは児童一人でもできますし、親子で行うとゲーム感覚で楽しく行えます。(使用する道具は消毒した清潔なものを使用してください) 当院に通院していた口腔機能低下症の児童のお子さんがこれらのトレーニングを数週間行っただけで、口腔機能は顕著に改善。測定値は大人の基準値をはるかに超える結果になりました。口腔機能低下症は生涯の健康に影響を及ぼす一方で、早期に対処すれば簡単に改善できる疾患です。特別に器具等を購入しなくても手軽にトレーニングができますので、口腔機能に心配な人はまず、歯科医院を受診し、指導を受けることをお勧めします。
宮本 日出(幸町歯科口腔外科医院・院長・歯科医師・歯学博士)