「値引き常態化」iPhoneの中国不振がいよいよヤバい、売れない「本当の理由」
中国でiPhoneが選ばれない本当の理由「その2」
中国でiPhoneが選ばれないもう1つの理由がバッテリーだ。現在のリチウムイオン電池は技術が成熟し、そのバッテリー容量はほぼ理論限界に達している。しかし、中国メーカー各社は2024年、続々とこの理論限界を突破し始めた。 アップルはiPhoneのバッテリー容量を公開していないが、ブラジル国家電信管理局の認証書類から明らかになっている。それによると、最上位モデルのiPhone 16 Pro Maxで4685mAhとなっている。しかし、中国メーカーの最新旗艦モデルで5000mAhを切っている機種はなく、Xiaomi 15 Proでは6100mAhにも達している。他社もほぼ6000mAh前後の容量であり、iPhoneは2年程度の後れを取っていると言える。 リチウムイオン電池の負極材料には黒鉛(グラファイト)を使うのが定石だ。グラファイトは層状の分子構造をしており、充電すると、この層の中にリチウムイオンが格納される。放電すると、このリチウムイオンが放出され、電子が供給され電力が生まれる。つまり、負極にどれだけたくさんのリチウムイオンを格納できるかでバッテリー容量が決まる。 一方、グラファイトではなく、シリコンを負極材料に使うとより多くのリチウムイオンを格納できることが知られており、理論上は20倍以上にもなる。しかし問題は、リチウムイオンがシリコンと結合をすると、シリコンの結晶構造が変わり、体積が最大3倍にも膨張してしまう。これにより負極材料が損傷する。つまり、バッテリー寿命が著しく短くなってしまうのだ。 この問題を中国メーカー各社が突破し始めている。シリコンをナノ粒子化して、グラファイトに添加するなどの手法で、シャオミはシリコンを6%添加した金沙江電池を開発し、旗艦機種からミドルレンジ機種までの搭載を始めた。また、オナー(Honor)は青海湖電池、ビボ(Vivo)は藍海電池、OnePlusはCATLとの共同開発による氷川電池など、続々と6000mAhを超えてきている。 このシリコン添加負極リチウムイオンバッテリーをどのように使うかは、各社の戦略により異なる。バッテリーの体積はほぼそのままで、バッテリー容量を大幅に向上させたスマホもあれば、バッテリー容量は微増にして体積を大幅に小さくし、スマホ本体を薄くしたり、他のパーツを搭載して性能向上を図るスマホもある。 シリコン負極は急速充電の性能も向上させている。iPhone 16の急速充電の数値は非公開だが、アップル公式では「27W以上の充電器を使用」することを求めており、さまざまなメディアの実測値によると30W程度だという。しかし、中国メーカー各社の旗艦機種では80Wから90Wの超急速充電が可能になり、0%から50%までの充電は15分を切るようになっている。この面では、iPhoneは5年以上の後れを取っている。 もちろん、これはアップルの技術革新が遅れているというよりは、アップルとしては今のバッテリー容量で問題を感じていないということだろう。現代社会は、カフェやコンビニ、空港などあらゆる場所で充電ができる環境が整い、モバイルバッテリーも簡単にレンタルすることができる。バッテリー容量をやみくもに大きくしていくことは意味のないことかもしれない。 しかし、決済から本人確認、公共交通の利用、商品の注文まで、ほぼすべての生活でスマホを利用するようになっている中国社会では、バッテリー切れは何よりも恐ろしい。そこでは、どうしてもバッテリー容量が大きく、超急速充電ができる機種を選びたくなる。