被疑者A氏はその時間に犯行現場付近にいませんでした!?犯人捜査から素数の個数まで…矛盾を導くことで証明する「背理法」の簡単な考え方
数学ってどこでわからなくなったんだろう……微分積分?三角関数? 積極的に提言する数学教育の専門家として知られる数学者の芳沢光雄さんは、そのつまずきは、そもそもの算数に始まっているのではないかと指摘します。単なる計算問題や公式の暗記ではなく、「数学への土台となる考え方」を身に付けることが大切です。今回は「背理法」の基礎となる考え方を紹介します。じつは、この背理法、日常の中でも大活躍する考え方なんです! 【写真】犯人捜査から素数の数まで…矛盾を導くことで証明する「背理法」の簡単な考え
推薦入試の面接で「背理法はどのようなものですか」
算数から大学数学までを眺めることを隔週で書いている。今回は「背理法」というものを取り上げたい。 大学教員人生45年間の最後の16年間は桜美林大学リベラルアーツ学群が本務校で、2023年3月に定年退職となった。実はその前の22年間は城西大学と東京理科大学の理学部を本務校として、数学科の入試問題ではいろいろな思い出がある。 推薦入試の面接で、「背理法はどのようなものですか」という質問をすると、判で押したように「√2が無理数であることを説明します」という解答であった。 また、2002年度の東京理科大学理学部数学科の一般入試では「背理法とは何かを20字以上100字以内で説明せよ」という記述式の問題が出題され、いろいろなエピソードを思い出す。とくに、その問題が朝日新聞の一面にも取り上げられたことが忘れられない。
A氏は凶悪事件の犯人なのか?
そもそも背理法とは、仮定から結論を導くために、結論を否定して推論を積み重ねて矛盾を導いて、結論の成立をいう証明法である。 たとえば、東京でのある凶悪事件の犯人としてA氏が浮上した。「A氏が犯人ならば、犯行時刻にA氏は東京にいる」がいえる。ところがA氏は「その時刻には大阪のパチンコ屋さんで遊んでいました」と刑事さんに訴えた。 刑事さんは早速そのパチンコ屋さんを訪ねてA氏の顔写真を見せると、「間違いないですよ。その時刻にこの人は大当たりが全く出ないことに腹を立てて、台をげんこつで叩いていたので、我々が注意しました」という証言をもらった。 それによってA氏に関してはアリバイが成立し、A氏は犯人でないことが証明されたことになる。これは背理法である。