「シンプルに言ってしまえば、詐欺の上に成り立っている性行為です」――子どもを手なずける「グルーミング」とは #こどもをまもる
“集団の心理・論理”が働くケースもある
西田さんによると、マインド・コントロールを強めるために「社会的遮断」が行われるケースも多いという。 「『2人きりになろう』とか、『うちにおいで』などというのは、物理的な遮断です。『あんな親はダメだ』『親は君のことをまったく理解していない。でも、自分がついているからもう大丈夫だよ』とか、『友だちにも言っちゃだめだよ』『邪悪な社会から守ってあげたい』などと言うのは、心理的遮断です。ただでさえ、性的なことに関しては誰かに相談しにくい。親にも友人にも話せない場合が少なくありません。さらに『2人だけの秘密だよ』などと約束させられると、ますます誰にも言えなくなります」 物理的に「社会的遮断」が起きやすいのが合宿生活だ。家庭や友人からまさに物理的に遮断され、閉じられた世界で生活していると、集団の論理が絶対化されやすい。とくに日本のスポーツ集団などはヒエラルキーがあり、コーチや監督の指示を絶対視して崇拝さえする傾向があるので、マインド・コントロールされやすいともいえる。 「部活や特殊技能の集団の場合、先生やコーチなど上の立場の人に対して、批判的な見方をしてはいけないといった刷り込みが生まれやすい。コーチの要求にこたえるのが『正しい行動』だと思い込んでしまうわけです。そのため、高校生くらいの年齢で性的な知識はある程度あったとしても、自分がされていることを、別の意味合いに解釈しがちです。いわば通過儀礼のようなもので、これを受け入れて乗り越えないといけない、という心理を働かせて自分を説得させるのでしょう。日本は同一性や同調圧力が強いので、立場が上の者から『そういうものだ』『仕方がない』と言われると、考えることをやめて、誰にも相談できず、ただ我慢してしまう場合があるのです」
被害を防ぐためには
では、グルーミングの被害から自分自身、あるいは子どもを守るには、どうしたらいいのだろう。西田さんは、次の3点をあげる。 1. グルーミングという手法の存在を、未成年者に知ってもらう。その場合、「自分の言うことさえ聞いていれば、うまくいく」といった言い方をする人は怪しいといったように、具体的に説明する。 2. たとえ信頼している相手でも、裸の画像を送れと言ってくるなど性的な要求や話題を振ってきた段階で、「これを受け入れてはいけない」とシャットアウトすることの重要性を繰り返し伝える。また、そういうことがあった場合、親か第三者に報告か相談するよう教える。 3. 学校やスポーツクラブ、なんらかの集団の場合は、集団としてグルーミングから未成年者を守ることを責務とする。具体的には、1対1の個別指導はしない、常に第三者の目が入るような組織にしておく、など。 相談窓口の存在を広く知ってもらうことも大事だ。なかには、親には相談しにくい未成年者もいるだろう。最近は、電話で話すことが苦手な未成年者も少なくない。そこで性犯罪や性暴力被害者の支援団体では、SNSによる相談を受け付けているところもある。