「コーヒー味のお吸い物」に愕然…日本のかつお節を"ヨーロッパの台所"に広めた東京・築地の3代目社長の執念
■家庭でも、レストランでも スペインのアリカンテでシェフをしているエロイ・フアレスさんは、家に和田久のかつお節を常備しているという。 「日本食を作る以外に、スペインのトマトサラダや、豆のシチューなどにも入れて使っています。スペイン南部では生マグロを塩漬けにし、天日干ししたモハマ(Mojama)という料理があって、かつお節と味が少し似ているので南スペイン人には馴染みやすい味です」 また、筆者が先日訪ねたスペイン北部のバルでは、スペインのポテトサラダである「エンサラディージャ・ルサ」にかつお節がのっていた。オーナーに尋ねると、和田久の「花かつお」を使っているという。「日本のマヨネーズと花かつおはスペイン料理とも相性がいいので、常備している」と言っていた。 筆者もまた、和田久「花かつお」の愛用者である。和田久の大きく削られふわふわした花かつおは、そのままごはんにのせて食べられるほど、カツオの旨味が凝縮されていてコクがある。 ■「止まれないカツオと一緒なんです」 かつお節の需要が高まっている今、和田さんはかつお節以外にもホタテの貝柱や魚貝の乾物などの販売にも注力している。そして、「最後に大きなビジネスがしたい」という。 「スペインで開発したこの製造方法を日本へ持っていって、日本で工場を作れたらいいなと思っています。日本への恩返しというか、ベンゾピレンが出ないかつお節を日本で作ってみたいです。あとは、独立志向のある若者の背中を押していきたいですね」 和田さんがヨーロッパを飛び回っている間、日本の運営は弟と姉が手伝ってくれている。リモート会議を頻繁に行い、進捗報告をしあう。取材日もスペイン時間早朝5時からリモート会議をしていた。 「社員に、いつも社長がいなくてごめんねって言うと、『いないほうが楽です』と言われます。そういってもらえるほうが、私のいいところも出せるし」 そういってオフィスの一面に大きく貼ってあるヨーロッパの地図を見ながら、和田さんはこう続けた。 「私は、止まったら死んでしまうカツオと一緒なんです。カツオは口を開けっぱなしにして、黒潮にのって泳いでないといけない、生きてる間ずっと。私も同じです」 そうにこやかに話す和田さんの肌は、ツヤツヤときめ細かに光っている。美肌の秘訣を尋ねてみると、和田さんは少し照れたように笑いこう答えた。 「かつお節のおだしのお陰ですかね」 99年の歴史を背負い伝統を進化させた男は、まだまだ足を止める気はない。 ---------- きえフェルナンデス スペイン在住ライター 1982年生まれ。美容師として4カ国で働いたのち、北スペインのカンタブリア州へ移住。 インタビュー記事やスペインを題材にしたコラムを執筆している。 ----------
スペイン在住ライター きえフェルナンデス