「コーヒー味のお吸い物」に愕然…日本のかつお節を"ヨーロッパの台所"に広めた東京・築地の3代目社長の執念
■スペインで心機一転。意気込んだ矢先のパンデミック 2015年、和田さんは先述の取引先の協力を得て、スペインのア・コルーニャ県の港町リベイラに拠点を移した。ポーランドから大型トラック2台分の機械を運んだ。 初めの1年間は、場所が確保できず、ツナの缶詰工場の軒先を借りてかつお節を製造した。 その後、リベイラから100km離れたオ・ポリーニョで、約5000万円をかけた完全一貫生産の工場が完成。スペイン保健所の検査もすんなり通った。従業員8人体制で、毎日1~2トンのカツオを加工できるようになった。 その頃には、アジアからいくつかのかつお節業者がヨーロッパへ進出していたが、2008年からヨーロッパ市場を開拓し知名度も高く質で勝負していた「和田久」にはどこ吹く風。注文は増え続け、生産が追いつかなくなり、2020年1月にひとまわり大きな工場へ引っ越した。その頃には、従業員も18人に増えていた。 「さあ、借金返すぞ」と、意気込んだ矢先。新型コロナウイルスのパンデミックが発生した。 ■売り上げがゼロ、家庭向けの商品で食いつなぐ 2020年4月、売り上げはゼロになった。 従業員2人を残し、政府の補助金制度を使って一旦16人を解雇して様子を見ることにした。スペインでは同月、パンデミックによるロックダウンが開始。レストランはすべて休業になり、その状況が2カ月続いた。 レストランが稼働しない、ということは、業務用のかつお節の注文が1つも入らないということだ。和田さんは、「この状況でできることはなんだろう」と考えた。 「注文がないからって家にいると、ストレスで頭がおかしくなりそうだったんで、工場に出て魚を切ってました」 従業員2人と和田さんの3人体制で家庭向けのかつお節を製造し、工場からの直売を始めた。SNSで告知して注文が入るも、売り上げはすずめの涙ほど……。だが、何もしないよりはいい。 スペイン在住の筆者もロックダウン中に、かつお節を注文したうちのひとりだ。当時は日本へ一時帰国することもままならなかったため、40グラムのかつお節を5袋と日本の和田久が売っている日本茶を購入した。日本が恋しくなっていたため、和田久の取り組みにはずいぶん救われた記憶がある。