「コーヒー味のお吸い物」に愕然…日本のかつお節を"ヨーロッパの台所"に広めた東京・築地の3代目社長の執念
■「足で稼ぐ営業」に救われる スペイン全土で警戒事態宣言が発令され、街中が静まりかえった5月。ドイツの卸売業者がスーパーマーケットに卸す家庭用のかつお節を大量に注文してくれた。パンデミックの前にドイツの食品展示会で営業した際に、取引が決まった業者だった。月売上、約3万7000ユーロ(約600万円)。ほっとした。 「注文が入った時のことは忘れられません! 今でもその時の担当者と会うと『本当に助かった』と感謝しています」 さらに、ロンドン時代の工場でお世話になった仲介企業や、ヨーロッパへ進出した当初から取引していたイタリアの業者も発注をしてくれた。それらの業者だけではない。過去に“足で稼ぐ営業”で繋がりのあった取引先から、次々と注文が入った。 「会社で静かにしていてもしょうがない」と和田さんの"足"は止まらなかった。勉強を兼ねて、コラボレーションの可能性や新たなビジネスチャンスを模索。オリーブオイルや生ハムの研修、アスパラ缶詰工場にヤギ牧場など、スペインの国内中を回った。 12月にスペイン国内の飲食店の営業が再開すると、それまで半年ほど売り上げがゼロだった業務用の商品が売れるようになった。2021年に入ると売り上げは毎月右肩上がりに回復。その頃には、解雇した従業員を再び雇用し、全員で働ける体制に戻った。 ■口コミで広がり急成長 パンデミックから2年後の2022年。売上高は250万ユーロ(約4億2000万円)に伸びた。口コミで広がっていくフェーズに入っていたため、雪だるま式に売上は伸びている。2024年、売上高は6億円を超える見込みだ。 ヨーロッパでの売り上げが上がると、低空飛行だった日本本社の売り上げも少しずつ伸びていった。 かつお節が広がった背景には、ヨーロッパからのインバウンドが増えたことも追い風になっているという。かつて「なにこれ?」と未知の食材だったかつお節は、「日本で食べたたこ焼きの上で踊っていた食材」として認識されるようになった。結果、日本食への関心と需要が高まり、かつお節の売り上げも伸びる、というわけだ。その追い風を見方にし、スペイン、ドイツ、フランス、ベルギーなどの食品展示会場を巡り、かつお節の調理法や食べ方を伝えて歩いた。 実際に、一般家庭では、どのように食されているのだろうか。スペインで取材中、高級百貨店「エル・コルテ・イングレス(El Corte Inglés)」で、かつお節を購入していたカンタブリア在住のビルヒニア・ロサレスさんに話を聞いてみた。 「今、スペインでブームのラーメンを作りたくて購入しました。YouTubeを見て『かつお節で』だしを取るとおいしくなる、と言っていたので」