有元葉子のすっきりと美しい台所で「見当たらないもの」と「簡単には捨てないもの」
料理家 有元葉子さんのスタジオには、プラスチック製品がほとんどない。安くて軽くて丈夫、世界第3位のプラスチックの生産国である日本では、どこを向いてもプラスチック製品であふれかえっているというのに(海洋プラスチック問題について |WWFジャパンより)。 なぜ持たないのかという問いに、有元さんは「プラスチックはぞんざいに扱っても壊れませんが、劣化したら直すことはできないし、使い込む楽しさもないでしょう」と話す。 「劣化したら直す」とは、何を指しているのだろう。 「使い込む楽しさ」とは、どんな楽しみなのか。 【写真】有元家のキッチンに見当たらない、日本の多くの家庭にあるものとは? インタビューでお届けする料理家 有元葉子さんの連載。 納得のいく台所道具を探し、なければ本来の用途に最適な形、素材、大きさなどを一から考える開発秘話をうかがってきたが、今回は長年愛用されている台所道具との付き合い方についてお聞きした。 ※以下、有元さんの言葉。
25分でご飯が炊ける土鍋
うちでは土鍋でご飯を炊いています。面倒じゃないですか? と聞かれる方も、一度ご自分でやってみると、簡単に、しかも炊飯器よりも早く炊けるので、ちっとも面倒でないことがわかるはずです。 私が使っているのは伊賀焼窯元 長谷園さんの「ロースト土鍋」で、火に掛けてから出来上がるまで25分くらいです。 土鍋に米と同量の水を入れて中火に掛け、だいたい10分くらいで湯気が上り始めるので、そこで火を止めます。蓄熱が素晴らしく、そのまま15分ほど置けば、ほかほかのご飯がいただけます。 その土鍋が、昨年、手に入らなくなるかもしれないというニュースを見ました。 土鍋の原料に使う「ペタライト」という鉱物の中に、電気自動車を作るのに必要な物質が含まれていて、中国に抑えられたというのです。 土鍋が作れなくなったら大変です。私たち消費者もそうしたニュースを気にかけるとともに、同時に今あるものを、大事に使い続けなければと思いました。
使えば使うほど丈夫に育つ
ご飯を炊き始めたら、すぐにお櫃(ひつ)に水を張ります。 ひとりきりでも一度に2~3合炊いて、炊き上がったら水をよく拭き取ったお櫃に移しています。食事を終えても、お櫃の中のご飯はまだ温かい。温もりが残るうちに、1回分ずつ容器に入れて冷凍にします。 秋田杉のお櫃はうちの必需品です。余分な水分を吸ってくれるし、ほのかな杉の香りでおいしくなる気がします。お櫃に使われる木はいろいろあります。木の種類によって、香りが異なるので、自分好みの木を選ばれるといいと思います。 炊き込みご飯もおひつで。米2合に牛蒡が丸ごと1本入った「牛蒡の炊き込みごはん」 写真:「ちゃんと食べている?」より お櫃も土鍋も洗うのに洗剤はいりません。水を張って、張り付いた米の粘りをふやかしてから、たわしで洗う。お櫃は木目に沿ってこする。洗い終わったら、どちらもしっかりと乾かす。 炊くところからここまでの一連の流れは、もう当たり前のルーティンになっています。 土鍋のいいところは、ご飯の味や使い勝手の良さだけではありません。使い込むほどに、使い手に合わせて育っていくのです。 初めて使う時は、まずお粥を炊き込みます。このひと手間が土鍋を保護することになります。ひびが入ってしまった時も、同じやり方によって、水漏れが防げるのだと言います。 洗うのも、きちんと乾かすのも、毎日やっていれば自然と身に付くこと。 せっかく育てた土鍋ですから、ひびが入ったから「はい、さよなら」なんてしたくありません。おかゆを炊くなどで補完して、気長に育てていく。こういう賢い知恵が好きです。