有元葉子のすっきりと美しい台所で「見当たらないもの」と「簡単には捨てないもの」
料理している時間そのものを楽しむ
土鍋やすり鉢は、うちにはなくてはならないもの。和食を作るときは自然と手が伸びる道具です。すり鉢の中でゴマやとろろを磨っていると、なんとも心が落ち着くのです。 ふと考えます。 炊飯器のタイマーや保温機能は、本当になくてはならないものでしょうか。 急いでいる時は炊飯器やハンドミキサーは便利です。子育ての大変な時期には何度も助けられました。 でも今は、土鍋でおかゆを炊いたり、すり鉢を使う時間を惜しむほど、急かされることはありません。お料理をしている時間そのものを楽しむ。それも料理を味わうことだと思います。 ◇安価で楽チン、そして便利。こうした売り文句に簡単にのせられないのは、台所道具ばかりではない。有元さんは梅干しや漬物も市販品は買わないという。 「たとえばたくわんひとつでも、昔ながらの本当においしいたくわんって、今は買うことができません。おいしいたくわんを入手することはむつかしい。自分で漬けるのが一番です。漬けてみると実はすごく簡単なんですね。そして、とってもおいしい。 そういうことが、暮らしを豊かにすることなんだと思う」 有元さんのいう豊かな暮らしとは、気持ちよく生きていくことと同義語であり、「気持ちよく生きる」とは、物も自分も楽しみながら十分に使い切ることなのだ。 後編「歴然とした差は『目よりも先に手が気づく』有元葉子を虜にする『市原さん』と『榧』の箸」では長年使い続けている箸について、なぜそれでないとだめなのか。理由とともに詳しくお伝えする。 後編「歴然とした差は『目よりも先に手が気づく』有元葉子を虜にする『市原さん』と『榧』の箸」を読む。
風間 詩織(編集者)