有元葉子のすっきりと美しい台所で「見当たらないもの」と「簡単には捨てないもの」
料理は加減が大事
知恵といえば、すり鉢を洗う時、みなさんはどうされているのでしょう。 今のご家庭では、あまりすり鉢、すりこぎは使わないのかしら。 うちでは5~6人用の大きい鉢も、1~2人用の小さい鉢も、どちらも重宝しています。 軽く炒ったゴマを鉢の中でゴリゴリ磨ると、ふわっと香りがあがってきます。この匂いでおいしいゴマかどうかがすぐわかるもの。 ハンドミキサーを使えば、蓋をしてスイッチを入れればあっという間にペーストになるので短時間でできます。ただし途中で香りを感じたり、味見をしたりはできません。お料理は手早さが必要なこともあるけど、手に伝わる感触や香りも大切にしたいもの。 ゴマのかぐわしい香りいっぱいの鉢の中にゆがいたほうれん草をたっぷりと入れて和えれば、とってもおいしそうでしょう。 ゴマ和え以外に、酢味噌和えやとろろにも使います。 大きな鉢なので混ぜやすく、鉢のまま出しても見栄えします。 とろりとした磨り流し汁や、冷や汁なんかの時は、片口の鉢もいいですね。 大きなすり鉢の方は、ひとり分から7~8人分まで作れます。 実は今の鉢は二代目で、初代と出会ったのは、もうどこのお店だったかわからなくなるくらい昔、昔のこと。地域に根差した民芸的なものの中には、時々とても美しいものがありますから、旅する時はあちこちのお店を覗きます。そういう中で見つけたのではなかったかしら。 それを、うっかり割ってしまったのです。 食器なら欠けたり、割ってしまっても、金継ぎができます。でも、すり鉢は丈夫でないとなりませんから、繋いでもすり鉢としてはもう使えません。 つてをたどって、この時はなんとか二代目を手に入れましたが、同じすり鉢はもう作っていないとのこと。今のを失くせば次はないわけです。 丈夫な道具ですが、不注意をしないよう気をつけなければと思います。
溝を洗うのにぴったりな道具は
すり鉢は大は小を兼ねるので、大きい方が使いやすいとは思いますが、あんまり重いと洗ったり、出し入れするのが億劫になります。これから買うのでしたら、家族の人数に合わせて選ぶといいでしょうね。 すりこぎは昔から山椒の木と決まっています。そういう決まり事にも、何か知恵があるのかしら。 洗い方の話をするつもりが、すっかり後になってしまいました。 溝に汚れのたまりやすいすり鉢をどう洗うか。使い終わったら水を張って、しばらく置いておきます。汚れが少し浮いてきたら、たわしで目に沿ってこする。それでも細い溝のつまりは、なかなか取れないことがあります。 そんな時私は、古くなった茶筅を使っています。茶筅のくるりと巻き上がっている先端部分を切ると、すり鉢の溝のつまりを掻き出すのにぴったりなのです。 専用のブラシもあるようですが、うちにはこちらがよいみたい。 すっかりおんぼろになってしまいましたが、次の茶筅はまだ新しく、掃除用に落とすにはまだ惜しい。おんぼろくんに、もうちょっとがんばってもらいます。 くたびれた茶筅に限らず、うちでは食器を拭く布巾も、よれよれになったら台布巾に落として、穴が開いたら最後は雑巾にしています。 母からもらった無水鍋は、もう60年くらい使っているかも。 簡単には捨てない「使いきる」工夫は、今でこそサステナブルと呼ばれますが、昔から日本人にとっては当たり前の考え方です。そして使いきるとは、そのものを愛することだと思っています。 「最後まで愛おしく思えるか」は、物を買うときの基準になっています。