寝不足の日本人がじつは知らない「体内時計のしくみ」
細胞という工場で
まず、遺伝子とは何かということを考えてみたい。 私たちの体は、細胞によって形作られている。細胞という小部屋が無数に集まることで、臓器や器官ができているのだ。細胞は細胞膜という膜によって、細胞の内外が隔てられている。脳にある神経細胞や、皮膚の上皮細胞、筋肉繊維をつくっている筋細胞など、形状や機能はさまざまだが、基本的な構成は同じだ。 例えば、赤血球という例外を除いて、どんな細胞にも、核と呼ばれる区画が存在している。核には、私たちの遺伝情報であるデオキシリボ核酸(DNA)という物質が保管されている。「ゲノム」という言葉をよく耳にするが、それは核の中に貯蔵されているDNAの総体を指す。DNAは、私たちが生命として存在し、機能するために必須の情報だ。つまり、生命の“設計図”である。 細胞の内外では、タンパク質が機能している。タンパク質は、アミノ酸と呼ばれる化合物が数珠つなぎのようにしてつなげられた構造であり、私たちの血肉を構成し、機能させている実体である。タンパク質は、細胞内で合成され、一部は細胞外へ分泌される。 遺伝子とは、これらタンパク質の設計情報となるDNA配列のことである。ヒトには2万個強の遺伝子があって、それぞれが異なるタンパク質の設計情報である。では、設計図である遺伝子(DNA配列)から、どのようにしてタンパク質がつくられるのか?一つの細胞を、タンパク質を製造する工場に喩えて考えてみたい。 工場内には、他のエリアとは区画されたデータ保管センター(核)があり、タンパク質をつくるための設計図(DNA)が大切に保管されている。工場ではたらく人々の仕事は、大きく二つに分けられる。 (1)データ保管センターで設計図のコピーを取って製造部門に送る仕事(コピー担当)と、(2)送られてきた設計図のコピーにもとづいてタンパク質をつくる仕事(製造担当)である。 この設計図のコピーは、リボ核酸(RNA)という物質であり、とくに情報を伝令(メッセージ)することから、メッセンジャーRNAと呼ばれる。コピーが製造担当に渡されると、製造担当はコピーの情報をもとに、原料であるアミノ酸からタンパク質を製造する。ちなみに、コピーは永久的なものではなく分解されていってしまうため、コピー担当は、常にコピーを取り続けなければならない。設計図(遺伝子)の種類は二万個以上あるから、各々コピーが取られ、製造が行われている。コピー担当も製造担当も、大忙しだ。 細胞の種類が違えば、遺伝情報も異なりそうな気がするが、実際のところ、私たちの体にあるどの細胞をとってきても、核に貯蔵されている遺伝情報(DNA)は、基本的にそっくり同じなのである。 それでは、どうやって神経細胞や上皮細胞、筋細胞など、異なる機能をもつ細胞になるのかというと、細胞の種類ごとに、どの設計図が、どれくらいコピーを取られ、どれくらい製造されるのかが異なっているのだ。この差異によって、細胞は皆同じ設計図をもっているにもかかわらず、異なるはたらきをもつ細胞に分化する。
金谷 啓之