アスリートがケガをしたらSNSはNG?――プロサッカー選手 川澄奈穂美がSNSの反応に感じたこと
――たとえば日本では、アスリートが競技以外のことを発信するとバッシングを受けたり、ネガティブな反応が出ることが多々あります。川澄選手自身、そういう経験は? 川澄奈穂美: 私自身はそういう経験はほとんどなくて。けっこうマイペースな方なので、自分が言いたいと思うことは言っちゃうし、そのスタンスはあまり変わらないんですけどね。ただ、日本と海外の違いみたいなものはすごく感じます。 2014年に初めて海外のチームでプレーしたとき(※同年、シアトル・レインFCに期限付き移籍)、当時のチームメイトがケガをしてしまったんです。当然試合には出られないんですけど、そんな状況でもSNSでみんなと「ウェーイ!」みたいに遊んでいる動画を投稿していて。 当時の私は頭の中もおもいっきり“日本人”だったので、「え?そんなの載せちゃって大丈夫?」って心配になってしまったんです。それこそ日本だったら「お前、ケガして試合に出られないのに何やってんだ」みたいなことを言われるじゃないですか。でも、特にネガティブな反応はなかったんですね。リプ欄を見ても「楽しそうだね!」みたいなコメントしかないし、誰も何も気にしていない。 ただ、考えてみたらこれって別に変な話じゃないんです。私たちはアスリートですけど、プロでも1日の練習時間って数時間程度しかやれない。それ以外はいわゆる「普通の生活」を送っているんです。友達とも遊ぶし、ご飯も食べる。ケガをしていても1日中リハビリしているわけじゃない。だから、それを「当たり前」と受け止めてくれる状況は、すごく健康的だなと思います。海外が「特別」というよりは、むしろ日本のほうがちょっと特殊な反応があるんだな、というのは正直感じていますね。
「女性アスリート」としてプレーを続けるうえで感じる“雑音”
女性が「スポーツ」をすること、さらには「プロ」としてプレーを続けることは、男性のそれよりもはるかに“雑音”や“障壁”が多い。特にサッカーは今もなお「男性のスポーツ」という印象が強く、川澄自身もそこをいかにクリアしていくかを常に考えている。 ――2011年のワールドカップ優勝で「女子サッカー」も一躍脚光を浴びましたが、今感じている課題はありますか? 川澄奈穂美: ワールドカップの優勝で「なでしこジャパン」という名前をたくさんの人に認知して頂くことができました。私が小学生のころは「サッカーをやっている」と言うと「女の子なのに珍しい」と言われる時代だったんですけど、今なら「じゃあ、未来のなでしこだね」という時代にはなった。 それこそテレビのCMなんかでも、ボールを蹴っているのが女の子だったりすると、「日本もここまで来たのか」と、うれしい気持ちにはなります。ただ同時に、その程度で喜んでいるようじゃまだまだだなという思いもありますね。 ――川澄選手も経験があると思いますが、女性アスリートに対してビジュアル面を取り上げられたり、どうしても“プレー以外”の部分がフォーカスされてしまうこともあると思います。 川澄奈穂美: 自分自身はあまりそういうことを考えず、つねにポジティブにやってきたつもりですけど、ワールドカップ後は新聞やメディアで他の選手は呼び捨てや「〇〇選手」と書かれるのに、私は「川澄ちゃん」と書かれることが多く、違和感はありました。それはあくまでも「一面」だけですけど、やはり女性がアスリートを続けていくことが、難しい状況はあるのかなと。 アスリートに限らず、女性が働くことに対してはまだまだ窮屈な部分が多い。特にスポーツをやる上では「男性と比べられてしまう」ということを強く感じますね。サッカーはまさにその典型で、たとえばフィギュアスケートは男女で比較されたりすることってほとんどないですよね?ジャンプの回転数も、当然男子の方がたくさん飛べるけど、それで「女子は男子より飛べない」みたいなことを言われることもない。女性もちゃんと「アスリート」として評価されるけど、これがサッカーになるとどうしても「スピードがない」「迫力がない」と言われてしまう。 それは事実だし、私たちアスリートはそういうパフォーマンスを上げるために毎日トレーニングして、高いレベルを目指してやらなければいけない。そういう周囲の評価や目っていうのは、当然真摯に向き合わなければいけないけど、女子サッカーにとっては「男子と比較される問題」は何とかクリアしていかなければいけない課題だと思っています。