変わる「駐妻」、海外赴任に同行した女性たちのキャリア断絶を防げ 三浦梓さんの思い
女性たちの市場価値と自己肯定感を上げたい
――人材バンクのように、登録会員の大体のスキルを把握しているんですか。 はい、そうですね。入会時やキャリアインタビューなどを通じて経験した職種を聞く流れをとっています。 その内容をもとに何でも受けるというより、会員たちにとって市場価値が高くなる仕事なのか、人を大切にする企業なのかという点はだいぶ精査しています。 なぜなら、ある程度のスキルのある人たちに、海外で働けないんだから無料でやってくれるでしょという声もあります。駐妻になりたての頃、「駐妻に仕事をお願いしたほうがいい。なぜならスキルや経験があるのに、安価で働いてくれて便利だから。知り合いの社長にも勧めている」と、ある社長から私たち駐妻に向けて堂々と言われたことがあります。 それはおかしいと奮起したことが、今の仕事の始まりです。私自身の使命として、対価に見合う仕事、対等な仕事を作りたいと思っています。スキルや経験があるならそれに見合う高単価な仕事であるべきです。 というのも駐妻は、自己肯定感が下がっている状態なんです。私自身もそうだったんですが、所属していた会社や役職がなくなり、結婚で名字が変わっていると「○○さんの奥さん」と呼ばれるんです。アイデンティティーが揺らいでいる状態です。 海外に行き、時差の関係やオンラインで仕事をお願いするのは難しいなど仕事の機会も失っている中、仕事の機会があるだけでもうれしいため、低単価で依頼を受けてしまう。また、仕事をお願いする企業側も、オンラインでどう仕事を発注したらいいか分からず、雑用的なものを渡しがちです。 となると、「私はもうテープ起こしくらいしか仕事がないんだ、そのぐらいの人間なんだ」と自信を失ってしまう。それが3年も続くと市場価値が高いと証明できるものもなくなって、自ら「簡単な仕事でいいです」「無料でいいです」と言ってしまう。そこをまず取り去りたかったんです。 女性たちが常に自分に自信がある状態で、「これをやりたい」「これができます」と言えるためにも、仕事は選んでいかなければいけませんし、作っていかなければと思っています。 実は「テープ起こし」は私自身が言われたことなんです。知り合いの社長にリモートワークで何か仕事がないか聞いたら、「時給900円の社長の日程調整か、テープ起こしなら」と言われて、それまで人事でマネージャー職をやっていた経験は活かされないのかと傷ついたので、こういう傷つくことをさせたくないと思ったんです。 ですから、海外進出する企業のマーケティングリサーチなど、日本に戻っても続いていく仕事や、自分自身が成長しないとできないような少し難しめの仕事を獲得してくるようにしています。駐妻キャリアnetとしては、またお仕事をお願いされるように結果を出し続けることにもこだわっていて、すでに約50社と契約実績があります。 ――それだけの難度の仕事をこなせる女性たちが会員には大勢いるわけですね。 そうです。今、会員が828人いて、そのうち約86%が総合職で働いてきた女性です。会社名では、ボストン・コンサルティング、A.T.カーニー、ゴールドマンサックス、三井物産、キリン、シャープなど大手も多いですし、弁護士や公認会計士もいます。 2021年に始めた女子大生による100人インタビューでは、聞けば聞くほど皆さんすごい経歴なんです。東大を卒業してJAXA(宇宙航空研究開発機構)に入ったとか、弁護士資格を取ってシンガポールで働いていたとか、そういう経歴の方たちから「仕事がなくて困ってます」とか「自分は何ができるでしょうか」と相談されるんです。そういう女性たちが埋もれているんです。