自民党総裁選討論会:経済政策の具体的な議論は深まらず:高市氏は日銀の利上げに明確に反対
財政政策を巡っては意見が分かれる
他方、河野氏は、政府の役割は民間経済の活力を最大限引き出すことであり、補助金を付ければよいというものではない、とする。そして、規制改革によって、民間経済の活力を高めることを主張する。また、金利が上昇する中、政府の利払い費はさらに増加し、財政環境は悪化すると警鐘を鳴らす。現在のプライマリーバランス(PB)の黒字化見通しは地方政府のPBの黒字に依存する部分が大きく、中央政府のPB赤字は依然大きいとする。そのうえで、中央政府はPB黒字化ではなく、利払い費も含む財政収支の黒字化を目指すべきと主張する。 河野氏の議論は納得感の高いものである。ただし、同氏は財政と社会保障の健全化を進める独立機関の設立を主張するが、それが実際にどのように政府の財政政策に影響力を持ち、財政健全化を推進するのかは明らかではない。追加の説明に期待したい。 このように、アベノミクスのうち第2の矢の財政政策については、両方向から議論がなされたが、なお活発な議論とは言えないだろう。また、社会保障制度改革については、給付と負担のバランスを見直すとの議論は多く聞かれたが、具体策は議論されなかった。
高市氏は日本銀行の利上げに明確に反対
アベノミクスの第1の矢である金融緩和について、大多数の候補者は、円安修正につながる日本銀行の追加利上げを支持しているとみられる。そうした中、唯一高市氏のみが、日本銀行の利上げに反対の意見を明確に述べた。日本銀行の独立性を尊重する岸田政権の現役閣僚としては、かなり異例の発言と言えるだろう。 高市氏は、2%を超える物価上昇は海外の食料・エネルギー上昇が主導するコストプッシュ型の物価上昇であり、日本銀行が目指す良い物価上昇ではないと指摘する。そのもとで利上げを進めることは、住宅ローン金利の上昇などを通じて国民生活に悪影響を与えることから反対、との姿勢である。アベノミクスの継承者であることを明らかにした。 物価上昇率の高まりは一時的要素によるところが大きく、2%の物価目標達成はまだ見えていない、という点では高市氏の指摘は正しいと思うが、それを前提にしても、現在の金利水準はなお低すぎており、それが様々な副作用を生んでいると考えられる。過度な円安もその一つだろう。 代表質問者からは、日本銀行の利上げを阻めば、再び円安が進み、物価高が国民生活を圧迫するのではないかとの指摘があったが、高市氏はそれには答えなかった。 仮に高市氏が総裁・首相となれば、日本銀行の追加利上げが制約を受けるとの見方が金融市場に生じ、円安要因になるだろう。それは、円安の修正を受けて物価高懸念が和らぎ、個人消費がようやく緩やかに持ち直しつつある現在の流れに水を差してしまう可能性もあるのではないか。