100のパラレルワールド”で猛暑の原因を探る。「イベントアトリビューション」×「高解像度モデル」で地球温暖化の影響を評価するには
メッシュをさらに細かくすると?
──メッシュをもっと細かくすることはできないんですか? メッシュを20キロメートルから5キロメートルに細かくすると、もちろん計算量は多くなりますが、実は計算の難しさはそんなに変わりません。 ところが5キロメートルより細かく、たとえば2キロメートルにしようとすると難易度がぐっと上がります。2キロメートル程度の細かさになると雨の降り方などをよりくわしく計算する必要が出てくるので、計算式が変わってきて、正確なモデルをつくるのが難しくなるんです。 それでもやはり細かい地域差などを見るために、5キロメートルより細かいメッシュのモデルを使ったイベントアトリビューションに挑戦したいと思っています。現在、2キロメートルのメッシュのモデルを使った実験を検討中です。 ──温暖化によって将来自分の住んでいる場所がどうなるのか、より細かくわかるようになるとよいですね。 毎年のように猛暑が続いていることもあって、温暖化が進行していることは皆さんも実感しているのではないかと思います。そんな中でおそらく多くの人は、温暖化の状況について知りたいというよりも、温暖化でどこにどんな影響が出るのか、どんな対策を取るべきなのかといった、より具体的な情報に興味が移ってきているように感じます。
「温暖化に適応した社会」の実現に向けて
気候変化を細かい地域レベルで調べる研究は、そういった期待に応えるためにますます重要になると思います。 気候変動の研究者は「温暖化によって、将来はこんなに暑くなります」といった情報は出せるのですが、そうなった場合の解決策まではなかなか示せません。温暖化によって変化した環境や社会にどう対応するかは、社会全体で考えることになります。 とはいえ、「世界の平均気温が2050年までに2度高くなる可能性があります」などといわれてもぴんと来ないし、一人一人が温暖化対策を考えたり実行したりするところまでは行かないですよね。 そこで研究者としては、もっと皆さんがイメージしやすい形で温暖化の影響に関するデータを示していきたいと思っています。たとえば個人の健康リスクや災害リスクに直結するような形で温暖化の影響を示せれば、皆さん一人一人の行動につながるのではないかと思います。 私の目指すところは、私が現在進めているような気候変動の研究がこうした記事などに取り上げられなくなることなのかしれません。温暖化は今、未解決の環境問題や社会問題として存在しているため、私の研究をこうして取り上げてもらっているわけです。 将来的に気候変動の研究について注目されなくなったとしたら、それは温暖化問題を解決できていたり、社会が温暖化に適応できていたりする証拠だと思います。そんな社会の実現に向けて、研究を頑張っていきたいと思っています。 取材・文:福田伊佐央 撮影:村田克己/講談社写真部 取材協力・図版提供:海洋研究開発機構
伊東 瑠衣(国立研究開発法人 海洋研究開発機構(JAMSTEC))