100のパラレルワールド”で猛暑の原因を探る。「イベントアトリビューション」×「高解像度モデル」で地球温暖化の影響を評価するには
100個の仮想地球でシミュレーションをくりかえす
──日本の猛暑に地球温暖化の影響がどれくらいあったかは、どうやって調べるのですか? 「イベントアトリビューション」という手法を使います。様々な大気や海に関する出来事(イベント)に対して、人間活動に伴って進行する地球温暖化がどれくらい寄与(アトリビューション)しているかを、「温暖化する地球」と「温暖化しない地球」を比較して調べる手法です。 人間活動による温暖化が起きる地球と起きない地球を、それぞれ気候モデルでつくります。そして、産業革命によって二酸化炭素などの温室効果ガスがふえて、温暖化が始まったとされる19世紀から現在までの気温の変化を、それぞれの地球でシミュレーションします。 シミュレーションは、それぞれの地球で100回ずつ行います。 ──温暖化する地球と温暖化しない地球で、それぞれ100個の“パラレルワールド”をつくるんですね。 そういうことです。海面水温や温室効果ガスの濃度などの初期条件を、自然の揺らぎの範囲内でわずかに変えると、シミュレーションの結果として得られる現在の気温は、各パラレルワールドで少しずつちがってきます。 当然ながら、温暖化する地球のほうが、温暖化しない地球に比べて全体的に気温が高くなります。 現実の世界は、温暖化が起きた地球が1つしかありません。しかし、こうしてたくさんのパラレルワールドをつくって比較することで、現在の地球で起きている現象に温暖化がどれくらい影響しているのかを確率的に見積もることができるようになります。 たとえば2022年の日本の猛暑が温暖化しなかった地球ではほぼ起こりえないことなどが、わかるようになるんです。
地形の影響まで調べるには細かいメッシュが必要
──2022年の猛暑に対する温暖化の影響を見てみると(図1)、日本海側や関東地方で影響が大きいことがわかります。各地域への影響がこんなに細かくわかるものなんですね。 気候モデルでは、大気や海を細かいメッシュ(格子)に区切って計算します。私たちは5キロメートルの細かさに区切ったモデルで、日本周辺の気候を調べています。 ある格子の中に山や川、畑、街が含まれていたとしても、その中で最も大きな面積を占めるのが山であれば、その格子全体が「山」として扱われます。 そのため、一つ一つの格子が小さくなるほど、現実の地形などを細かく再現できるようになります。地形が細かく再現できると、地上付近の気温や風、雨量などの再現性もよくなります。 逆に60キロメートルや20キロメートルの大きなメッシュだと地形が大雑把すぎて、地域ごとの細かい気候の変化までは見ることができません。 たとえば、猛暑で知られる埼玉県熊谷市や岐阜県多治見市の気温の上昇には、山を越えて乾燥した高温の風が吹きこむ「フェーン現象」が大きく関係しています。これは山の地形がきちんと再現できていない大雑把なモデルでは表現できません。 5キロメートルのメッシュになると、フェーン現象や局地的な集中豪雨などの現象も再現できるようになります。地域ごとの影響を細かく見るには、細かいメッシュでの解析が必須です。