100のパラレルワールド”で猛暑の原因を探る。「イベントアトリビューション」×「高解像度モデル」で地球温暖化の影響を評価するには
3段階で「ダウンスケーリング」していく
──5キロメートルの細かいメッシュで、19世紀以降の100年以上にわたる日本の気温をすべて計算することになるんですか? メッシュが細かくなると地形などの再現度は高まりますが、その分、計算量がふえてしまいます。5キロメートルのメッシュですべて計算すると膨大な量になるので、やり方としては地球全体(全球)を粗いメッシュで計算してから、日本周辺だけを細かいメッシュで計算するという手法を使っています。 具体的には全球を60キロメートルのメッシュで計算して、次に日本を含む広域を20キロメートルのメッシュで計算し、最後に日本周辺だけを5キロメートルのメッシュで計算するという、3段階になっています。計算する範囲を段階的に落としていく「ダウンスケーリング」というやり方です。 ─細かいメッシュを全球で計算すると確かに膨大な計算が必要になると思うのですが、最初から日本周辺だけに限定して計算すれば、そこまで計算量は多くならないのではないですか? 日本周辺だけでシミュレーションを行うと、残念ながら現実と食いちがう結果が出ることが多くなります。やっぱり全球での計算が必要なんです。 日本の気候は、赤道付近で発生するエルニーニョ現象やラニーニャ現象、また大陸からの影響も受けます。さらに日本周辺の海面水温はより大きな循環の一部として変化し、日本の気候に影響を及ぼします。このような地球規模の様々な現象からの影響抜きには正しく再現できません。 日本の気候を精度よく再現しようとするなら、まずは全球で計算して、そこから段階的に計算する地域をせまくしていく必要があります。
地球シミュレータでの計算
この3段階の実験を、長期間の気候変化を調べる研究では数十年分行いますが、イベントアトリビューションでは着目するイベントが発生した期間に対して行います。たとえば、今年の夏の猛暑に対する温暖化の影響を調べたければ、今年の5月ぐらいからの数ヵ月間だけを計算すればよいので、計算する量も時間もかなり少なくできます。 5キロメートルの細かいメッシュのモデルで日本周辺の数か月間の計算をする場合、JAMSTECのスーパーコンピュータである「地球シミュレータ」を使えば、1週間もかからずに計算できます。 ──計算結果はどういう形で出てくるものなのですか? シミュレーションの結果としては、基本的に各地の気温がどうなるかというデータのみが出てきます。それを読み解くのは、私たち研究者の仕事です。たとえば、ここの山のふもとで気温が上がっているのはフェーン現象のしわざだろうとか、ここの沿岸部は海風の影響で気温の上昇が抑えられているんだなとか、地形を考慮して各地で何が起きているのかを分析します。 日本は平坦な場所が少なくて山が多い国なので、そういった地形の影響はわりとはっきりと出ます。日本で地域差を見ようとしたら、やはり地形をある程度正確に表現できる5キロメートルぐらいの細かいメッシュが必要ですね。