海なし県・長野に伝わる定番食材「塩いか」って何? 伝統の保存食の美味しい食べ方
なのでまずは「塩抜き」が大前提。水につけ過ぎるとうま味が抜けるので、このさじ加減も、腕の見せ所になるよう。
塩抜き後のひと切れを味見すると、生のイカとも軽くボイルしたイカとも違う、やわらかくしっとりした歯触り、そしてしっかり塩気のしみこんだイカのうまみ! これは、なかなかクセになるなあ。
この日は細切りにした塩いかが、トマトやパプリカ、タマネギなどの夏野菜、黒オリーブと和えられ、南米風のセビーチェに大変身。しょっぱい塩いかが調味料的な役目も果たし、ワインにもビールにも抜群に合う、最高のおつまみとなりました。 後日、長野出身の色々な人に聞いてみたところ、塩いかの定番の食べ方は「酢の物」という話でした。キュウリやワカメ、家によってはミョウガが入るケースも。「暑い時期によく食べるもので、親戚の集まりにはマスト。お茶請けとして出すときもある」と話すのは、友人H。60代後半には、「ごちそう」という感覚の人もいたようです。 「子どもの頃のご馳走で、お祭りや盆正月に、キュウリ甘酢あえ、マヨネーズあえ、味噌ぬたなんかも定番だったねえ」 こんなコメントも、友人経由で到着。懐かしい、思い出の味というのは、聞いているだけでも幸せいっぱい。 ただし「最近はあまり食べなくなった」という声もあり、「実家への帰省でお盆に食べた」のは10人中1名でした。さらに20代になると、なんと5人中1名しか存在を知らなかったのです(友人Hの調査)。「最近価格が高くなってしまって食べなくなった」という声もあるようで、こうした郷土料理は食べる機会が減っている様子もうかがえました。価格以外にも伝承の問題など多々原因がありそうですが、豊かな食体験が消えていくのは、非常にさみしい気持ちになります。 先人の知恵や土地の歴史がギュッとつまった、長野の味。機会があれば、ぜひまた食べたいものです。
●著者プロフィール ムシモアゼルギリコ フリーライター。記事の執筆のほか、TV、ラジオ、雑誌、トークライブ等で昆虫食の魅力を広めている。昆虫食だけでなく、一般の食卓では見かけないような食材を追うのが好き。著書に『びっくり! たのしい! おいしい! 昆虫食のせかい むしくいノート』(カンゼン)、『スーパーフード! 昆虫食最強ナビ』 (タツミムック)
ムシモアゼルギリコ