刻み煙草用の包丁として一躍有名に...江戸幕府から専売のお墨付きが出た「堺刃物」
あのまちでしか出会えない、あの逸品。そこには、知られざる物語があるはず!「歴史・文化の宝庫」である関西で、日本の歴史と文化を体感できるルート「歴史街道」をめぐり、その魅力を探求するシリーズ「歴史街道まちめぐり わがまち逸品」。 【写真】「堺伝匠館」2階にある堺刃物ミュージアム「CUT」の、刃物の製造工程を紹介する展示 今回の逸品は、大阪府堺市の「堺刃物」。「堺打刃物」として経済産業大臣指定伝統的工芸品に指定され、「堺打刃物」「堺刃物」は地元の堺刃物商工業協同組合連合会の登録商標でもある。堺はよく知られるように、戦国時代を動かした鉄砲の生産地である。同じく鉄を主素材とする刃物が、ここでどのように発展してきたのか。 そして、国内の料理人が使う包丁の大部分を占めるといい、近年は海外からも熱い視線を集める、その切れ味はどこから生まれてくるのか。「堺刃物ミュージアム」を擁する「堺伝匠館(さかいでんしょうかん)」にたずねた。 【兼田由紀夫(フリー編集者・ライター)】 昭和31年(1956)、兵庫県尼崎市生まれ。大阪市在住。歴史街道推進協議会の一般会員組織「歴史街道倶楽部」の季刊会報誌『歴史の旅人』に、編集者・ライターとして平成9年(1997)より携わる。著書に『歴史街道ウォーキング1』『同2』(ともにウェッジ刊)。 【(編者)歴史街道推進協議会】 「歴史を楽しむルート」として、日本の文化と歴史を体験し実感する旅筋「歴史街道」をつくり、内外に発信していくための団体として1991年に発足。
茶人たちを支えた、先進的ものづくりの町
中世都市として繁栄した堺は、その名の通り、摂津国と和泉国の境にあり、河内国の境界とも近い。戦国の世にあって、周囲に環濠(かんごう)を巡らした自治都市として独立を保持し、鉄砲をはじめとした最新技術品を量産して富を築いた。 自ら船を仕立てて海外との貿易にも取り組んだことも、その存在を大きなものとした。多くの戦国大名たちが、その経済力を頼みとし、町はその交渉の場ともなった。 そして、茶の湯などの文化が栄え、今井宗久や千利休といった時代を代表する茶人たちが現れる。もちろん彼らは、権力者たちがその地位を維持するために必需の、武器・武具などの物資を提供しうる商人でもあった。 近世に入ると、新たな経済都市である大坂に、多くの堺商人たちは拠点を移すことになった。ただ、それでも堺にはものづくりの基盤が維持され、多くの特産品が生産されてきた。その一つが、包丁をはじめとした刃物であり、現在の「堺刃物」というブランドの確立へとつながるのである。