日本人は禅、神道を世界にもっと発信すべき ── サティシュ・クマールが説く「美しいビジネス」
成長は悪なのか
──ビジネスを進める上で「成長」は、切り離して考えられません。自然や環境に配慮した理想的なビジネスを実践するとき、成長とは善でしょうか、悪でしょうか。脱成長論を唱える人もいます。 サティシュ:自然界を見てください。木は種から始まり芽が出て幹となり、やがて樹木となり、ある程度大きくなったら成長がストップします。 人間も同じですね。赤ちゃんがだんだん大きくなり、身長はだいたい160~180センチになったら止まります。 ビジネスも同様で、「ここまで」というところがあると思います。企業で言えば最初は1人で始まりますが、100人くらいの規模になったら「止まる」という選択をしても良いですし、新しいことを始めるのも良いかもしれません。 縦に伸び続けるのではなく、水平的に伸びていくビジネスがあっても良いですね。ビル・ゲイツやイーロン・マスクのように、莫大なお金を稼ぐ大きな成長はしない方が良いのではないでしょうか。 さまざまな木が森のように林立するイメージで、小さいけれど多様な企業が存在する、水平的に広がる経済は素晴らしいと思います。 人がそうであるように、企業における「死」も決して悪いことではありません。死がなければ新しいものは生まれません。人も企業(仕事)も役割を終えたらなくなる、つまり新しいものを始めることが必要です。 「ビジネスにおいても、死は恐れるものではない」というのが私からのアドバイスです。再生はいつも死から始まるものですから。 一方、物質的な成長でないもの、例えば詩の世界やダンス、友情……。物質でなければ成長は無限であっても良いですね。 日本のビジネス界の人たちは、日本はもう十分に豊かで、ここからは成長より分配のフェーズだとすでに分かっているはずです。 アメリカも同様で、経済大国でありながら格差社会は広がり、武器を作ってイスラエルやウクライナに輸出している。そんな成長には意味がないことは明白です。 もちろん、すべての成長を否定しているわけではなく、アフリカや南アメリカなど、インフラが足りていない地域には成長が必要だと思います。大きな国が少し成長の速度を緩めることで、水平的な豊かさの広がりを実現できるのではないでしょうか。