NY在住半世紀 ジャズ・ミュージシャン中村照夫に聞く写真とカメラの話
ジャズベーシストでプロデューサーの中村照夫さんは、1964年から渡米して以降50年以上にわたりニューヨークに住み、世界的なジャズミュージシャンたちとセッションを重ねてきたことで知られる。プロデュース面ではヘレン・メリルなど約40枚のレコード制作も手がけた。現在は帰国して日本に住み80歳になる中村さんだが、ミュージシャンとは別にフォトグラファーとしての顔も持つ。新たな写真展を仕掛ける中村さんにオンラインで話を聞いた。
デジタル全盛でもなおフィルムカメラを愛用
「うちはおふくろや姉貴、姪も絵描きという家族だったんですが、おやじにキヤノンのカメラを買ってもらってから最初はメカニックな面に魅力を感じたんです。ニューヨークに渡ってからはレコーディングのときカメラマンを頼むより自分で撮ったほうが早いなと思って撮り始めたんです」 フィルムカメラ通でもある中村さんは、やがて本格的に写真撮影に興味を抱くようになる。 「カール・ツァイスのレンズに惚れてコンタックスRTSというツァイスが装着できるカメラを入手しました。ライカも買ったけれど、ドイツのレンズはやっぱり色が違うんですよね。根本的に設計の思想が違うのか、日本のカメラはディテールはよく写るかもしれないけれどアーティスティックなボケとか味わいの部分でやっぱりドイツのレンズに魅かれたんです。ズームレンズは使いません。28ミリと35ミリ、85ミリが好きです」 デジタル時代になった今もフィルムを愛用するのはなぜか。 「デジタルのほうが簡単でいいんだけど、やっぱりフィルムのほうが雰囲気もいいし、一枚ずつフィルムを巻き上げる撮影のリズムもいいんですよね。ただフィルムは高くなっちゃいましたね。今も手もとにはライカM4-PやコンタックスG1、ローライフレックスなんかを持っているんですが」
日本人観光客への見方も変わったスマホ時代
多くの人がスマートホンを使うようになってから、日本人観光客へのステレオタイプな見方も変わったと笑う。 「僕が渡米した60年代は海外旅行する日本人が増えた時期で、日本人というとみんな首からカメラを下げてあちこちでパシャパシャ撮っている…そんなイメージを持たれて笑われたもんです。今はそんなことないですよ。アメリカ人もみんなスマホ持って写真撮るし。写真との付き合い方は日本もアメリカも大差ないでしょうね。時代、変わりましたね。iPhoneなんかかなりよく写るし、写真の加工編集もいろいろできる。そのうち人工頭脳が写真を撮るようになるんじゃないですか」 写真にのめりこんだきっかけは、ニューヨークでさまざまなミュージシャンに会ったり、行ったことのない場所へ行ったときに感動したこと。その感動を撮って、ミュージシャンや風景のアーカイブをつくりたかったという。 「写真って瞬間を撮るもので、絵とはそこが違う。興味を持った人物や景色を瞬間的に撮る。音楽をやるときも写真を撮るときも表現するという部分では同じだし、違いを考えたこともないのですが、出した音はなくなっちゃうのに対して写真は瞬間を撮って保存できる。そこに魅力がありますね」